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あ、ありのまま今起こったことを説明するぜ。 お、俺はピザデブにキ…おぞましいことをされただけじゃなくご主人様宣言された。 な、なにを言ってるかわからねぇと思うが、俺にも何が起こったのかわからなかった。 かわいそうなやつとかガチホモとかじゃねぇもっとおそろしいものの片鱗を味わったぜ…! 俺は当然逃げ出した。 マントと着て杖持ったデブに迫られたら誰だってそうするだろ? だけど、悔しいがそのデブは頭がかわいそうな奴じゃあなかったんだ。 逃げ出した俺はあっさり捕らえられた。 魔法で。魔法、ゲームとかに出てくるのとおんなじようなアレだ。 月だって二つあった…信じたくないけど、どうやらここは所謂ファンタジーの世界だったらしい。 月を見て実感した俺は、仕方ないから少しは話を聞く気になった。 僕だって儀式じゃなきゃっ血の涙をデブ…マリコルヌが流したからとか、ご主人様と呼ばれた瞬間げんなりした顔で、やっぱりいいよ…といったというのもある。 マリコルヌは俺が異世界からきたことは信じなかった。 まあ、そりゃそうだよなマリコルヌは俺の話を聞く気はないようだし、話をする気もなかった。 グヴァーシルがどうとかぶつくさ言ってたけどよくわかんねー。 俺が剣を握ったこともないというと、マリコルヌは何も言わなくなった。 俺には何も期待してないって態度だったぜ。 そしてどこで用意してきたかは知らないが、体裁が悪いからと剣と文字を覚える為の本を俺の目の前に積みながら、 マリコルヌは使い魔だから面倒は見てやるけど後は知らないと言った。 俺だってこんなデブの使い魔なんて続けるつもりは無かった。 返す方法なんてないとか言いやがるマリコルヌなんかにいつまでも付き合ってられるか! 「サイトさん、おはようございます。今日も剣の訓練ですか?」 そんな俺の心のオアシスは身近な所にあった。 考え事をしていた俺は、声の方へと顔を向ける。 そこには可愛いメイドさんが洗濯物を抱えて立っていた。 「おはようシエスタ! そうなんだ。ったく師匠は修行に関してだけはストイックで困るよ」 「そんなこと言っちゃダメですよ。せっかく教えてくれてるんですから」 …この世界のメイドさんはいいな。 か、かわいいし、胸も大きいし。 鼻の下を伸ばし始めた俺の背中が叩かれた。 「うわっ」 衝撃で学院の庭に吹っ飛ぶ俺の腹に、亀の甲羅がめり込む。 痛みでのた打ち回る俺に、亀から重っ苦しい声が発せられた。 「サイト、貴様には素振りを命じておいたはずだぜ」 「ゲホッゲホッ…! …い、いやそれは今からやろうと思ってたんだよ」 「シエスタの胸ばかり見ていたお前が覚えていたとは思えねーな」 俺の言い訳をあっさりと亀は切って捨てた。 今日も切れ味抜群の突込みだぜ。 「な、なんでそれをッ!?」 「アホがッ、ブラフだよブラフ」 そう言って再度頭が叩かれたような衝撃が俺に加わる。 赤くなって胸を押さえたシエスタが去っていく。 とってつけたような別れの言葉と足音だけが目の前がくらくらしたままの俺の頭に届いてきた…師匠、恨むぜ。 俺は亀を睨みつけ、マリコルヌから貰った剣を抜く。 練習用にはいいかもしれんが、大していい剣じゃないって師匠は言ってた。俺にはよくわかんねぇ。 重くて使いづらいのは十分身に染みたけどさ。 ずっしりとした重みを全身の筋肉を使ってどうにか支えながら俺は亀を見た。 ありえない話だが、この亀が俺の師匠だった。 ここに来たばっかりのころだった。 俺はまだこの世界の常識って奴をよく知らなくってさ。 ちょっと調子に乗っちまった俺が貴族共にやられそうになった所を、この亀が助けてくれたんだ。 『これこれ子供達…大勢で弱いもの苛めしてんじゃねーぞ!!』 これなんて逆浦島太郎? なんて、助けられた時は唖然としたよ。 だけど話してみると気のいい亀で、実は俺と同じ世界から来たらしいってことやここでの暮らし方、それに生き抜くために剣も教えてくれる事になった。 名前は…長いんでまだ覚え切れてないから、俺は単に師匠と呼んでる。 「ったく、お前帰る気あんのか? メイドなんてナンパしてる場合じゃねえぞ」 師匠のため息に俺は誤魔化すように頭をかいた。 いわれて見れば確かに妙な話だった。 何故か俺は、こんなネットも風呂もないド田舎にいるのに不思議とホームシックとかにはかかってないんだよな。 字を覚えるのも速かったし…どうなってんだ? 疑問を宙ぶらりんにしたまま、俺は返事を返す。 「んー…それはそうなんだけどさ。やっぱ、モテると嬉しいじゃん。仕方ないって!」 「確かにあれは凶器だが…ハッ」 師匠、もしかしてアンタも見てたのか? 黙秘する亀からはわざとらしい口笛だけが聞こえてきた。 それを見て目を細めかけた俺の背中に気障ったらしい、芝居がかった声がかかった。 「使い魔君、めったな事を言うもんじゃない。彼はあのゼロのルイズの使い魔だったんだぞ?」 首だけ振り向くと案の定フリルの付いたシャツを着た案外顔はいい貴族が造花のバラを持って立っていた。 「ギーシュだっけ? どういう意味だよ」 「ッ…まあいい。ここでは無礼講だ」 なんでも決闘以来友達が激減し、相談相手が師匠しかいないとかいうそいつは平民の俺に呼び捨てにされて頭にきたようだが、一瞬俺を嘲笑うような目をして気を取り直した。 その視線の意味を問い詰めてやりたかったが、そいつが口の端を持ち上げて「マリコルヌの、使い魔君」と言った瞬間に理解できた。 コイツ、彼女持ち。 俺、呼び出されてマリコルヌにおぞましい事をされて、部屋一緒。 奴が感じている優越感を、言葉ではなく心で理解したぜ…! 「ゼロのルイズは胸もゼロなんだ。ゼロばかり見せられる毎日を送っていたんだから、ちょっとくらい大きい胸を見てもいいじゃないか」 「む…それは」 ギーシュの意見に、俺はすぐにイエスとは答えられなかった。 時々見る小鳥を連れたゼロと呼ばれている貴族の少女のことは俺もも知っている。 本当はアイツがお前の主人だったんだ、とマリコルヌが言ってたからな。 その女の子は、ぶっちゃけ可愛い。 魔法が使えないことなんてどうでもいい俺からすると、ちょっときつそうだが小鳥を可愛がる仕草とか、色々、可愛すぎる。 だから胸なんてどうでも、よくはないが、まぁいいのだ。失礼な言い方をするなら、許せる。 俺の微妙な気持に気付いたのか師匠が話しに入ってくる。 一応、気を使ってくれたのか? 「そんなことよりギーシュ。テメェ今度はなんだ? またモンモランシーがどーとか言う話じゃ」 「そーなんだよっ!! カメナレフッ!!」 師匠の質問に、ギーシュは芝生の上に膝をつき、ドンッと両手で手を突いて亀に顔を寄せる。 一々大げさな奴だ… 「モンモランシーが元気になったのはいいんだ! だけど、ゲルマニア貴族なんぞの毒牙にかかりそうなんだよ!」 「ゲルマニア? あぁ、ジョ…ナサンか」 ジョナサン…俺の家の近くにあったファミレスと同じ名前の貴族も、俺と同じ世界から来たらしいって師匠から聞いている。 手っ取り早く情報を集めるのに成り上がったりしてるとか、悩んでるような調子で言ってたから、よく覚えていた。 「そうだ! 奴めッ、既に、モンモランシ家に近づいていたんだ! モンモランシーは奴からの誘いを断れず…」 「いや別にそういう風には見えなかったが「いいやそんなはずは無い! でなければあのガードの硬いモンモランシーが…」てかお前、ケティとはどーなったんだ」 師匠のの言を力いっぱい否定したギーシュは、ケティの名を聞いて動きを止めた。 俺と師匠は何も言わなくなったギーシュに首を傾げた。 よく見ると少し汗をかき始めたように、俺達には見えた。 「舞踏会の夜僕は飲みすぎて酔いつぶれてしまってたんだ。 そして目が覚めると僕はケティの部屋で眠っていた…な、何を言っているかわから」 師匠は何も言わずにギーシュを殴った。 勿論俺はそれを全く止める気は起きず、寧ろ何かに殴られて転がっていくギーシュを踏みつける。 シャツに足型がついたようだが、それは天罰が足型になって現れたと思え。 俺は師匠に親指を立て「グッジョブ」とだけ言った。師匠も満足そうだった。 「痛ッ痛い! な、何をするんだ!?」 「黙れよ。テメェそういう関係になってまでまたなんだ? あん? 二股とかお兄さん許さんぞ?」 「ち、違う! 僕はケティに何もしていない…ちゃんと服は着ていたし、ケティも酔いつぶれたから運んだだけだって…!」 「「フーン」」 白い目をする俺達二人に、ギーシュは慌てて話を続けた。 「本当だ! なんなら後で彼女に確かめてくれ…! ともかく、僕は彼女の部屋で目覚めて焦ったんだがそういうわけだった。 僕はケティが淹れてくれた紅茶を飲んで部屋を後にしたよ…そして」 「そして?」 「ケティに見送られて女子寮から出る所を、モンモランシーに見られた。しかもケティはまだ寝巻き姿でね。 すっかり誤解されてしまったよ…まったく、美しいバラには棘がつき物だがあの早とちりは困ったものだね」 そう言って、また俺達にさんざ小突き回されてからギーシュはその時の事を説明する。 ケティがとてもいい笑顔で強張った表情のモンモランシーに「ミス・モンモランシ。おはようございます。こんな所で"偶然”お会いするなんて、びっくりしましたわ」 「そ、そうね。あ、貴方が早起きしてるなんて知らなかったわ」「最近、朝少し勉強をしているんです」ケティはそう言って、まだショックの抜けきらないモンモランシーからギーシュに一瞥を向ける。 「もう日課の方は済ませられましたの?」 何故か尋ねられたモンモランシーは、ギーシュを一瞬だが憎しみを込めた目で睨みつけ、笑顔になった。 「…ッ! え、ええ。ギーシュ…「う、うん?」ケティと仲がよくて羨ましいわ」 「ありがとうございます。でもミス・モンモランシーこそ……」 ケティは微かに、挑発するように重心を傾けてギーシュとの距離を詰めた。 「昨夜はとても素敵でしたわ。ネアポリス伯爵とぴったり息もあってらして、いつのまにあんなに親しくなられましたの?」 その言葉で昨夜見た光景、外国の成り上がりと踊る姿を思い出したギーシュが口を挟 「…我が家の領内で伯爵が事業をされてるの。それ以上の関係じゃないわ! は、伯爵は紳士的な方だし…、私そんな安くなくてよ」もうとした時既にモンモランシーが顔を赤くして否定していた。 恥らう姿は、余りギーシュが見たことの無い恥らう姿で、ギーシュは少し胃が痛んだ。 ケティは柔らかい笑みを浮かべたまま頭を下げる。 「それは失礼しました「そ、そうだよ。ケティ。由緒正しいモンモランシ家と出自の怪しい上に節度のない伯爵では釣り合うわけがない! それにあの男、女連れで学院に来そうじゃないか!あんな軽薄な男とだなんて二度と言わないでくれたまえ!」 多少挙動不審になりながらモンモランシーの代わりに言ったつもりのギーシュを、モンモランシーは睨み付けた。 「ギーシュ…っ、失礼なことを言わないで! 私の家は今伯爵と協力してるんだから」 「な、「ギーシュ様、そろそろ行かれないと皆さん起きてきてしまいますわ」 激昂しかけたギーシュをケティが押し留める。 モンモランシーは既に美しい縦ロールをなびかせながら二人に背を向けていた。 「さよなら。またねケティ」 「ええ、ごぎげんよう」 …その時の事を語り芝居がかった様子で首を左右に振るギーシュへ、俺達二人は引きつった生暖かい笑顔を向けた。 「…お前それでよくそのジョナサン?とかいう貴族の事どうこう言えるな」 「あんな奴と一緒にするんじゃあない! 僕は今でも…」 「おっと、それならどうしてケティとまだ付き合ってるんだ?」 反論しようとしたギーシュは、師匠の質問を受けて苦虫を噛み潰したような顔をした。 「うっ…いや、それはだね。偶々言い出す機会がなかったというか、ケティもあの通り可愛いし、ね?」 「……師匠、俺はどう考えてもモンモランシーって娘とは切れたと思うんだぜ?」 「奇遇だな。俺もそう思う「ちょ…ちょっと待ってくれ! まだだ! まだだよ!! 僕はそろそろ本気を…」 「「無理だろ」」 膝から崩れ落ちるギーシュを置いて、俺達二人はシエスタの所に朝ごはんをたかりに行く。 野郎の浮気が原因の涙なぞ、俺達二人の足を止める枷にはなりようもなかった。 「私の分も忘れるんじゃないよ」 マジシャンズ・レッドを操作し、厨房へ亀を抱えて向かわせるポルナレフに気の無い言葉がかけられた。 声の主は、ここにいる間は不用意に外に出るわけにもいかないので現在ポルナレフと同居中のマチルダだった。 ポルナレフがサイトに剣を教えるのを邪魔するほど嫌な女ではないマチルダは、行儀悪くソファに寝そべったままジョルノが組織の人間用に作成させた問題集を解いている。 眉間に皺がよっているのを見て、ポルナレフはマチルダが解いている問題集を覗き込める位置へ歩き出す。 「わかってるさ。テファにもよろしくって頼まれてるからな。俺に任せておいてくれ」 最近、気分が若返ってきたのか昔のように自分の事を俺と言うようになって来たポルナレフの笑顔は爽やかだ。 「ならいいんだけどね」 「…俺が教えてやろうか?」 「アンタの世話になるほど落ちぶれちゃいないよ」 テキストを渡された時、娘同然のテファにもとても嬉しそうに"私が勉強を見てあげる”なんて言われたせいか、マチルダは反発した。 その様子に気付いて世話を焼こうとするポルナレフを拒否して、紙面をジッと睨みつける。 そうしていると何か頭に浮かんでくるような気がした。結局浮かびはしないのだが… テファや孤児院の子供達までがやっていたと聞いて暇つぶしにやりだしたが、案外梃子摺っていしまい意地になってしまったようだった。 暫くいなかった同居人に冷たくされ、ちょっぴりだが傷ついたポルナレフは肩を竦めた。 その頃、日課の朝練を終えたトリスティン魔法学院の教師の一人『疾風』のギトーは食堂に向かおうとした所を彼が教える生徒達と変わらぬ年の伯爵に呼び止められていた。 最初、ギトーは生徒かと思い鬱陶しく思い首だけ振り向いて話を聞こうとした。 客人がいる事は聞いているが、それよりも自分が覚えていないできの悪いメイジの可能性の方が高いと思ったからだ。 だがそうではなく、ゲルマニア貴族のネアポリスだと聞いて、ギトーは体を少年へと向けた。 ヴァリエール家の次女が患っていた病を治療した優秀なメイジの名前は、ギトーの耳に入っていたからだった。 爽やかな笑みを浮かべながら、ネアポリスは信じがたいことをギトーに提案した。 不愉快そうな表情を作り、ギトーは聞き返す。 「私にここを辞めて貴様の軍門に下れというのか?」 ネアポリスは頷き、説明をする。 ギトーは話にならんと、鼻で笑って去ろうとしたが…奇妙な事に足は動こうとしなかった。 気持としてはココから逃げ出したいというのに! 逸る気持を抑え、感情を隠そうとするが、爽やかに微笑むネアポリスの見透かしたような目にギトーは射竦められていた。 疾風のギトー…彼は風のメイジとしてとても優秀だった。 若くして炎のトライアングルであるキュルケの炎を軽くかき消すことだって出来たし。 風のスクエアである『遍在』だって使えるスクエアメイジである。 魔法を使うセンスもいい方だった。 だが…彼はどうしようもなく"臆病"だった。 遍在で五人に増えることはできても、五人分の勇気でも周りのメイジ達の一人分の勇気に到底足りなかった。 授業でキュルケを弄ぶことはできるのだが、戦いに赴くとなると気持が萎んでしまう。 先日現れた格下のトライアングルである"土くれ"の相手などとんでもない。 この臆病さのせいで、フーケ討伐にも参加しなかった。 もしそんなものに参加していたとしても、ギトーは戦わずに逃げ出していただろう…ギトーには覚悟が無かった。 だが、ギトーには不幸な事に魔法の才能はあり、プライドだけは育ち過ぎ…虎の威を借りながら自分の本性は隠してきた。 平静を装い続けるギトーの心を、ネアポリスの危険な甘さを含んだ言葉が掴もうとしていた。 それを察したのか、2、3言葉を交わしネアポリスが去った後もギトーはその場所から動けなかった。 ギトーの説得を終えたジョルノは朝食に向かうギトーと別れ、人気のない広場へと向かった。 そこは奇しくもポルナレフが決闘を起こったのと同じ広場だった…朝という時間、それに皆食堂に向かっている時間であった為に人気は全くなく、誰かが覗き見をしているようなこともなかった。 ジョルノにはわからないが、オスマンの使い魔のネズミがジョルノの前に現れたということは、そういうことなのだろうとジョルノは思っていた。 建物の影に立つジョルノと目を合わせたネズミが二本足で立ち上がり、喋り出した。 その声は間違いなく学院長オールド・オスマンのものだった。 「ネアポリス伯爵、わざわざこんな場所に移動してもらって悪いのぅ…しかしじゃ、わしの立場や何を言いたいのかまで貴公ならわかってくれると思っておるんじゃが?」 「ミスタ・コルベール達のことですね」 ジョルノは頷いた。 ネズミ…モートソグニルからから話が早くて助かると、若干相好を崩したような雰囲気が伝わってくる。 「うむ。教員の引き抜きは止めてもらえんかのぅ…」 学院にとって血肉ともいえる教員を引き抜かれてはかなわない。しかもそれがゲルマニアによるものというのは、オスマンにも看破できぬ問題だった。 流石にコレが王国にばれたら問題にする貴族もいるかもしれないし、新たにスカウトしてくるのも面倒くさい仕事だった。 「わかりました…ですが、既に声をかけた方に関しては、彼らの意志に任せていただくのが条件です。既に彼らと私の間で約束を交わしました。声をかけた私が今更なかったことにすると言うわけにはいきません」 「勝手に引き抜きをしたそちらに問題があると思うがのぅ」 自業自得と切り捨てるようにきっぱりというネズミに、ジョルノは笑みを浮かべたまま言う。 「それをおっしゃるなら、貴方方が彼らを飼い殺しにしたから応じていただけた。という言い方も出来ますが? ミスタ・コルベールの行動を、貴方は十年以上の時間があっても理解しなかった。そうですね?」 「むぅ…」 オスマンは苦い声を出した。辞表を出したコルベールを引き止めようとして、似たようなことを言われたからだった。 「わしもできれば穏便に済ませたいと考えておる。万事今まで通り何もなかった、と言う風にのぅ。勿論、辞めてまで何かしようとした彼らの要望には今後は耳を傾けるようにはするがの」 ネズミの目が鋭く細められる。広場の空気が密度を変えようとしていた。 「それを踏まえて、手を引いてもらえんかのぅ。今ならわしに貸し一つじゃよ君?」 「お断りします」 きっぱりと拒否するジョルノにネズミは眼光をより鋭いものへと変え、その小さい体でジョルノを威圧し始めた。 得体の知れぬ何かをネズミから感じ取り、ジョルノはそれを見定めようとネズミを見る。 「身の程を弁えろ成り上がり、貴様如き力尽くで従わせても構わんのだぞ」これこれモートソグニル、それではまるでわしが脅しておるようではないか。わしはタダお願いしておるだけじゃ、のう伯爵?」 「ええ。ですが、お断りすると言ったはずです。もう少し説明しなければいけませんか?」 圧力にもどこ吹く風と淀みなく返事を返すジョルノに、ネズミから発せられる何かが強くなった。 モートソグニルは、主人が止めるのも構わずに何故自分が一介の貴族如きに苛立たせられているのか考えずに、牙を剥いた。 風がネズミにまとわり付くように動き始めた。 「彼らとはよい関係を築きたいと私は思っている…約束は違えられない」 「ふむ…致し方ない「叩き潰せばすむと言ってやったのに、生意気な奴だ…!」 青い渦がネズミを包み、巨大な渦へと変わる。 そして風は不意に止んだ。 ネズミのかわりに巨大な竜が広場に現れていた。 シルフィードより何回りかは大きく、白い鱗が光を反射して輝いているようだった。 少し余った皮などを見て、もしかしたら年老いているのかもしれないと思ったが…見た目以上の何かを秘めているような凄みをジョルノは感じた。 「やめんか…!すまんの、伯爵。わしと離れておるせいかモートソグニルを押さえきれんようじゃ。この場は引いてくれんか?」 「三度も同じことを言わせる気ですか?」 「伯爵、挑発せんでくれ。拠点全ての精霊と反射の契約をしたエルフに向かって行ったメイジ達と同じ末路を辿りたいのなら止めはせんがの」 「反射?」 オスマンの、この場に相応しくない長い、説明的な例えにジョルノは首を傾げた。 系統魔法の本は幾つか読んでいたが、心当たりはなかった。 頭の中に浮かび上がったのは、久しく使っていない自分の能力の一つ。 「詳しくは話せんが、お主の攻撃はモートソグニルには届かぬのじゃよ。騙しておるのではない。また後日話し「なるほど。そういうやり方もありましたね」 ジョルノは合点がいったらしく、笑みを消して自分の胸元のボタンに触れた。 「ほっほ、中々博識じゃな。そういうわけじゃから、わかってくれたかの?」 「だが断る」 ネズミであった時より幾分余裕を持ったオスマンの声をジョルノはきっぱり断った。 竜の筋肉に力が入っていくのが、ジョルノの目に映る…ジョルノの肉体など一撃で粉々に出来るかもしれない。 だがモートソグニルは、攻撃するどころか「我をまといし風よ 我の姿を変えよ」 と唱え、元のネズミの姿に戻る。 不満げな様子でモートソグニルはジョルノから目を逸らす。だが口からは相変わらずオスマンの言葉を吐いていた。 「その凄み。ただのハッタリとも思えんの…いいじゃろう。じゃから、食堂にいるラルカス君に杖から手を離すように言ってもらえんか」 「ありがとうございます。こんな無駄なことは今後は遠慮したいですね」 冷めた表情で言いながら、ジョルノは片手をあげる。 ジョルノの視界の端で、建物の中からこちらを窺っていたラルカスの遍在が頷いた。 生徒に直接危害を加えるつもりはなかったが、ちょっとした騒動くらいは起こすつもりで控えさせておいたのだった。 「ほっほっほ、そうじゃのぉ。わしも将来有望な若者とはもっと建設的な話をしたいと思っておる」 「勿論です。私も貴方とは良い関係を築きたいと考えています」 「それは喜ばしい事じゃな。ではあるご婦人に一つ伝言を頼めないかのぅ?」 朗らかな笑い声をあげながら碌でもないことを言ってきそうなオスマンに、ジョルノは頷いた。 「構いませんが」 「ミス・サウスゴータというグンパツな太もものお姉さんに、わしからよろしくと伝えておいてくれんかな」 「わかりました。必ずお伝えしましょう」 サウスゴータ…ポルナレフの亀の中にいるマチルダが捨てさせられた家名をあげるオスマンに快く承諾する。 「すまんの。おおそうじゃ! 後一つ質問があるんじゃが」 「なんです?」 「ミス・ウエストウッドの胸って本物?」 「さあ? 本物なんじゃないですか」 イザベラが前に揉んでいたのを思い出しながら、ジョルノは返事を返して背中を向ける。 驚愕しているらしいオスマンとそのネズミを置いて、何事もなかったような顔で食堂に向かう。 知り合った学生達に軽く挨拶をし、以前から探させていたデルフリンガーが見つかったとか、トリスティンの王女アンリエッタが学院に来るなどの報告を受けても、共に食事をしているタバサ達が気にも留めない程度にしか反応を示さず… オスマンも暢気な、好々爺らしい表情で生徒達を見守りながら朝食を取っていたし、ラルカスはお近づきになった女生徒と今日も仲良さそうにしていた。
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J-529 ジョルノ・ジョバァーナ J-529 ST ヒーロー 黄金の風 黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス) お互い、アタックがブロックされなかった時、攻撃力に関係なく、相手ライフをそのキャラのレベルと同じだけ減らすようにする。 出典: 攻撃力を無視するので、実質P・S・Tをプラスする効果を全て無効にできる。 そのため血統・血族・イギーなどへの耐性は高い。 ステージも専用のJ-629 ネアポリス中・高等学校が強力であり、性質上スケールが人数のJ-297 杜王町・イタリア料理店「トラサルディー」、J-627 ネアポリス空港等と相性がいい。J-596 「13メートル」!!とも強力なシナジーを発揮する。 バトルが発生している場合には効果を発揮しない点に注意。特にレベルのみに頼った構築をしていると各種貫通効果で大ダメージを負う危険がある。 関連カード J-555 黄金のジョルノ J-566 トリッシュ・ウナ J-608 ゴールド・エクスペリエンス J-629 ネアポリス中・高等学校
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_ <ヽ. ィ ト、 __ /` ) ) _ ノ .ト、_ / ,' j `´ Ⅴ/ / / / . 人 `Y´ {ト、_`ァイ´ /`ヽ、 / .,' { r'´ } i ヽ ,' ハー、 \iヽ、 { i、_人 `ー く / ゝ、 \ノ ト ) i } `! r! 八 γ⌒ヾミ、、 .)_ -==-、 Y彡γ⌒`ヽ リ | }i ヽ ./ r.、 ))) r'´ _ .ヽ、 i!{ .イ r=、 Y イ .リ.{ / .{ .ノ ) /ノ / γ ヽ Yil..i| i } i く ノ ./ 廴{ 从 ゝノ ,.; i i{ } i! ミ、 .`ー' ノ イ { `入 ヾ ノ ヾ、 ゝ_ _ ノ 人 ゝ、>-イ彡'´ ゝ. `ヽ r--ー-=ミミヾ、__ _,./-''´ ̄!7/ / ./ `、ミ、ヽ {! i `ーミ、,,,ソ''´ i.{ イ /! }__ト、 ソ , ,ィ= Y _|! i´ ヽ、 r'rミ;ー;,,, ! ,ィ;;/,' {/ .ヽ | }λヽ! .、__≧\ ,,;; ,./≦ニヲ !k .i | {{ ト .` ヾ弋。ケ>ミi} { 代。ノ / ,'.ソ / ヽ ヽハ ゞ辷ニ, ''´ノ ゞ`ー='' .,イ../ ヽ、_ハ i  ̄ .. .. i r-'´ _}, .l ,. . l ,' ,,..;;<´.|ト,` ヽ,._ノ ´ 人ヽ、 / >ー=.| .ゝ、 '-=、__,,,-‐'' ,〃 ノ ,イ / /´ | . i \ `''- =- '' ,.イ// ,'、 / / .,イ ヽ、  ̄ /// | >''^ー───''''''´ ̄ ̄ヽ、 ___ i / ,// i! ,' `ー- -''´γ/}トイi! / ヽ ヽ、/ ヽ-''´ { { i/. i ヾ ´ { { .人イi ハ ∧ 从 i. . . . ; i {! i-く ノ.ノ ハ i┌ ┐ランカー6位 ”黄金の風”ジョルノ・ジョバーナ「ギャングスター」を目指して駆け上がってきた闘士中央部に近い都市にて違法闘技などで私服を肥やしていたディアボロを打ち倒した辺りから大きく実力を伸ばす現在は「裏闘技」業界の管理、違法闘技への粛清などを中心に活動真島氏の事業の大半を行っていることから、彼の後継者とも言われているが当人同士はあまり関係がない
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J-735 ジョルノVSディアボロ J-735 U キャラ 黄金の風 風 P(7) S7 T7 ☆☆☆☆☆ 風奇風奇○ ジョルノ、ディアボロ 人間 出典: J-346 仗助VS川尻浩作と似たデザインのカード。 コストは重いがJ-599 3つの『U』を使えば出しやすい。 ALL7と素でも高い攻撃力を誇るが、ヒーローディアボロに採用してJ-709 キング・クリムゾンを付ければ、手をつけられない程の攻撃力となるだろう。
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Today 価格 \134,400 最高出力 3.0kW[4.1PS]/8,250rpm 最大トルク 3.7N.m[0.38kg.m]/7,500rpm 乾燥重量 75kg 燃料タンク 4.6L カタログ燃費 73.0km/l(30km/h定地走行テスト値) 新排気ガス規制に対応した新型Todayが2007年8月22日発表された。 燃料噴射式(PGM-Fi)となり、燃料計が装備され、最大馬力と燃費がともに改善。 後方の荷台下にU字ロック収納スペースがある。 また、後部外装は丸みを帯びた形状となり、若干チープさが和らいでいる。 ただし性能・機能は上がったものの、価格も約3.4万円上昇した。 これはモデルチェンジ後の他車種にも言えることであり 今回の排気ガス規制対策が大変厳しいことを表している。 (上記諸元と説明は新型Todayのもの。モデルチェンジ前の型については以下を参照) Today/TodayDX (旧型) 価格 \100,590/\105,000 最高出力 2.8kW[3.8PS]/8,000rpm 最大トルク 3.6N.m[0.37kg.m]/6,500rpm 乾燥重量 71kg 燃料タンク 5.0L カタログ燃費 65.0km/l(30km/h定地走行テスト値) 国内メーカーの一般的なスクーターの中では最も安価なため非常に良く出回っている。 出力・各種装備は必要最低限をなんとかクリアしているレベル。 ただし、廉価モデルの割にサスペンションが柔らかいため乗り心地に優れる。 コンビブレーキのため扱いやすい。リアキャリアが標準装備。 外装違いでエンジンが共通のディオがある。 DXは特別色。 メーカーサイトの紹介ページ http //www.honda.co.jp/motor-lineup/Today/ 新型Today特設ページ http //www.honda.co.jp/TODAY/ 広報発表 http //www.honda.co.jp/news/2007/2070822-today.html この車種に対するコメントをどうぞ。 名前 コメント すべてのコメントを見る フロントサスはバネ+グリス。軟らかいを通り越してプアー。 -- (名無しさん) 2007-10-16 21 33 45 ボアアップすれば狼にもなれるがノーマルのままなら死にかけ羊そのもの。マゾなら、、、 -- (マゾ) 2007-02-19 14 58 35 ジョルノっぽいので買ったらハズれた・・・。非力っす。 -- (なー) 2007-01-31 22 47 40 盗難2年、自賠責4年で乗り出し11万だったよ -- (名無しさん) 2006-10-23 10 12 28
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原付初心者のための購入相談スレWiki 購入する前に知っておきたい事 原付の基本事項 中古と新車の差 原付購入の際に必要になる費用 原付のナンバー登録手続き 乗車時に必要、もしくはあった方が良い装備 買ったらすぐに乗れるか? 原付のオプションって? まずは乗ってる人の話を聞きたいなら インプレッション 自分の欲しいタイプがわからないなら 目的別お勧め車種 性能早見表 予算別 新車原付紹介ページ 紹介ページに掲載されている性能の見方 本体価格15万未満で 燃費重視 5 車種紹介中 (トゥデイ、ディオ、レッツ4、アドレスV50、チョイノリ) 加速重視 3 車種紹介中 (BJ、ジョグ、レッツ2) 本体価格20万未満で 燃費重視 4 車種紹介中 (スマートディオ、クレアスクーピー、ズーマー、ビーノ) 加速重視 4 車種紹介中 (ジョグZⅡ、ジョグZR、ZZ、スーパーモレ) 燃費重視(MT) 8 車種紹介中 (各種カブ50、ベンリィ50、YB、各種バーディー50) 加速重視(MT) 2 車種紹介中 (各種メイト50、K50) 本体価格20万以上で 燃費重視 2 車種紹介中 (スマートディオZ4、VOX) 加速重視 2 車種紹介中 (ギア、ストリートマジックⅡ) 燃費重視(MT) 5 車種紹介中 (モンキー、ゴリラ、エイプ、XR50モタード、マグナ50、GS50) 加速重視(MT) 1 車種紹介中 (RZ50) 日本で手に入る外車は? 外車原付 元は2chの原付購入相談スレから派生しています。 購入相談スレテンプレ ↓現行スレ↓ 初心者のための50cc以下購入車種相談スレ11 http //hobby9.2ch.net/test/read.cgi/bike/1175817412/ ↓過去スレ↓ 初心者のための50cc以下購入車種相談スレ10 http //hobby9.2ch.net/test/read.cgi/bike/1171882940/ 初心者のための原付購入相談スレ9 http //hobby7.2ch.net/test/read.cgi/bike/1167276727/ 初心者のための原付購入相談スレ8 http //hobby7.2ch.net/test/read.cgi/bike/1162025346/ 初心者のための原付購入相談スレ7 http //hobby7.2ch.net/test/read.cgi/bike/1159075731/ 原付初心者のための購入相談スレ6 http //hobby7.2ch.net/test/read.cgi/bike/1156899008/ 原付初心者のための購入相談スレ5 http //hobby7.2ch.net/test/read.cgi/bike/1154480646/ 原付初心者のための購入相談スレ4 http //hobby7.2ch.net/test/read.cgi/bike/1152093698/ 原付初心者のための購入相談スレ3 http //hobby7.2ch.net/test/read.cgi/bike/1149346783/ 初心者のための原付購入相談スレ2 http //hobby7.2ch.net/test/read.cgi/bike/1147244127/ 原付スクーター購入相談スレ http //hobby7.2ch.net/test/read.cgi/bike/1144969801/ このページは原付でツーリングwikiのスペースをお借りして作成しています。 このwikiに対するコメントをどうぞ。 名前 コメント コピペ用車種別リンク コピペ用
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一人ガリア入りを果たしたジョルノは、車がこちらでは馬車に当たるならば、飛行機に当たる乗り物竜籠に乗りこんでいた。 以前ガリアを訪れたのは『ポルナレフを探す、商売も行う』という目的の旅の途中で、テファニアと二人馬車に揺られていた。 初めて目にするものに目を輝かせて話しかけてくるテファの声も無く、魔法によって保護された車内には揺れも無い。 あの時に感じた穏やかな空気や平坦とは程遠い道を走るため避けられない車内の揺れを味わうことはないのだった。 日が傾き始め、魔法の照明を灯した車内は静けさに包まれていた。 ジョルノは書類に目を通し考えを巡らせていた。車内に置かれたテーブルの上では地球から持ってきたパソコンが置かれ、幾つかのウィンドウが開かれている。 錬金の魔法でバッテリーに充電できることもわかり、ある程度気兼ねなく使えるようになったそれをジョルノはとても重宝していた。 こんな時には特に。キーボードをジョルノが叩く。 ヴァリエール公爵夫人を脅すプッチ枢機卿の声がパソコンのスピーカーから流れだし、ジョルノは作業の効率を下げてこの場にいない知人達のことを頭に思い描いた。 プッチと別れたジョルノは、二人が会う予定の部屋に盗聴器を仕掛けデータとして保存しておいた。 場所が予め判明していたからこそ出来た事だが… 聞き終えたジョルノは、これからガリアでの所用を済ませようとしている自分の心がトリスティンの方へと強く引っ張られているのを感じていた。 これがただのジョルノ・ジョバァーナであれば引き返したのかも知れないが、ハルケギニアで複数の名前を持つに至った今のジョルノは幾つもの外せない予定があった。 今竜籠に乗り向かう先でも、魔法学院で別れたイザベラやプッチによって母を治療されたタバサが待っているのだ。 データの再生が終わると、ジョルノは手早くカトレアへの手紙を書いて、封をする。そしてそれに生命を与えた。 窓を開け、目も開けていられないほどの突風が吹きすさぶ中へ強引に投げこむ…一瞬で後方へと飛んでいった手紙がカトレアの方へと飛んでいくのを感じ取りながら、ジョルノは別れる前にプッチと交わした会話を思い出していた。 『なるほど。確かに貴方の言う事は、本当に大事な事だ』 プッチの前でも口にしたことを全て思い返しジョルノは、プッチが神を愛するようにとまで言った会ったことの無い父親と似た表情を浮かべた。 「フン………(僕の望む結果にたどり着けないって点を除けばな)」 そうこうする内にジョルノを乗せた竜籠は、ガリアの王都リュティスにたどり着いた。 人口30万というハルケギニア最大の都市リュティスの古いながらも壮麗な町並みを目にする暇も無く、ジョルノはヴェルサルテイル宮殿へと向かう。 家から漏れる明かりと立ち並ぶ街灯に照らされた道を、亀の中に入ったジョルノは竜籠から馬車に乗り換えて通り抜けていった。 亀が入った箱を乗せた無人の馬車は途中停車して、ガリアを任せている30代の男と…子供が乗り込んでくる。 亀から出ずに、声もかけずジョルノは少女と幹部である男との事務的な会話をスタンドの目を通して観察した。 子供はブルネットを短く刈り、整髪料で整えて服も少年の物を纏っているが中身はまだ10代そこらの少女で、テファの孤児院にいた一人だった。 今はパッショーネの一員となっている少女は、アルビオンの孤児院にいた頃は自分からジョルノに声をかけることも無く遠くから見ていたような気がする、という程度にしかジョルノの印象には残っていない。 だが、いつの間にか貴族との混血である子供に混じり、メイジとしての教育を受けトライアングルクラスのメイジとしてパッショーネ入りを果たしていた。 手紙のやり取りではそのようなことは一言も書かれていなかったし、部下からの報告にもその前兆は無かった。 どのような手段で、何故そんなことをしたのか? ジョルノへの手紙には、『難しいことだった。だけど皆より『覚悟』が上だってことを見せる必要があったから』とだけ書かれていた。 その為ジョルノ独自で調べたところ、没落した貴族の家の出だったらしく、同じ孤児院の仲間にジョルノが与えた金を使って少女は家の者を呼び戻した。 その中に組織に声がかけられていた者がいたらしい…隠すような事ではないと思うのだが、ジョルノはそ知らぬふりで少女らを使うことを決めた。 以来組織に入ってからは着実に功績を上げており、秘密主義や慎重すぎるきらいがあるがガリア内で認められつつある。 一方男は元はシャルル派と呼ばれる暗殺されたタバサの父を支持する一派の者だったが、今はパッショーネの幹部だった。 プッチ枢機卿と出会い、その性分を変えてしまった現王ジョゼフにも才を認められ、ある程度の役職を与えられていたが忠誠を誓う気はさらさら無い。 かといって遺児であり地位を回復したタバサへの忠誠も彼の中にはなかった。 彼がシャルル派を気取っていたのは、シャルルが撒く裏金を手にしたからだ。 裏金を受け取ってしまった事は、彼にとって拭いがたい汚点。 彼の父はなんということは無い貴族の家に生まれて、誠実な仕事振りや人柄こそ評価されていた男だった。 彼自身もその評判を継ごうとしていたが、ある時友が領地経営に失敗した。 放っておけなかった彼は手を貸したのだが、その末に彼自身も困窮に陥り、シャルルの援助を受けた。 それから困窮するまでの筋書きを書いたのがシャルルだと知るまでは彼は忠実な臣下だった。 今は、異界の書物『聖書』によって新たな宗教に目覚め、『レ・ミゼラブル』にいたく感動した彼は新たな異界の書物の閲覧許可を得る為に全力を尽くしていた。 亀から出ずに、声もかけずジョルノはそんな二人の事務的な会話をスタンドの目を通して観察した。 「後は今後の話しだが、ボスから新たな命令が来ることになった。最初は組織の大半の者にも秘密裏に行うとのことだ」 「私は残りの少数というわけですか?」 「そういうことだ。内容は、(僕もまだ信じられないところがあるから)追って伝えるが…」 最後に困惑を示しながらも幹部の言葉に少女は少し相好を崩した。 それを眺めながら、今日この馬車に乗るまでの間に男が手を回して試したからな、とジョルノは心の中で付け加えた。 自分で検査を行わせておいてしれっと少女に言う幹部の顔は自分には一片のやましい部分もないと言わんばかりの落ち着き払った態度だった。 新しく命じた任務の準備が思ったより早く済みそうなのも今少女の相手をしている男のお陰と言える。 その十分に新たな任務について理解しているはずの男が、意外な事に任務について懸念を持っているようだが。 「まさかボスにもう一度確かめるとおっしゃるの? 勘違いされるよりは何度か聞かれる方がマシ、と言う方らしいけれど」 「1ヶ月で200万エキューまでなら使ってよいとおっしゃった」 少女の言葉が癪に障ったらしく、男が乱暴な調子で返す。 「ど、どこからそんなお金が沸いて出るんです?」 「つい先ほどこれから二ヶ月分として資産と現金の半々で400万エキュー頂いた」 「先ほど?」 「(額が額なんで)ギトーってメイジが可哀そうになったさ」 それを聞き、ジョルノは少し困ったように苦笑する。 無制限に使用してよい、という意味合いも込めての金額だったのだが、それがかえって彼等にジョルノの正気を疑わせてしまったらしい。 トリステインの相場になってしまうが、市民1人当たりが1年間に使う生活費は平民で約120エキュー。 下級貴族は約500エキューほどで、豊かな14キロ四方の領地を持つ貴族の年収で1万2千エキューほどになる。 ゲルマニアではコルベールらに研究を行わせ、アルビオンの復興に資金、物資の援助を行っているにも関わらず何処から資金を捻出しているのか不審に思うのも仕方がないことだった。 子供が降りてから、ジョルノは亀の中からスタンドを通して男に声をかけた。 彼の仕事振りには全く不満もなく、その為会話は10分にも満たない短いものだった。 「クリストファー、お前の仕事振りに私は満足している。グンデンタールのアニエスからの嘆願は君の迅速な行動がなければ大きな遅れが生じていただろう」 「以前私の下にいた者が彼女と接触し、今私の下に虐殺に関ってしまった者がいた。二重の幸運に助けられただけのことでございます」 そうする方がジョルノの意向に沿うと承知している男は、声のする方へは目を向けずに答えた。 「それが案外重要なんだ。虐殺を命じたリッシュモン君には不幸だがな…ディ・モールト(非常に)ベネ」 「?」 「君個人が今まで誤魔化した金額は…400エキューくらいだったか」 「ボ、ボス…!? それは…」 「そのまま話を聞いてくれないか? 君が今の仕事に納得してくれているなら、ガリアの仕事は今後も君に任せようと思っている」 慌てて申し開きを行おうと声のする方へ頭を垂れ、跪こうとする男を制止してジョルノは言葉を続けた。 「私は君の仕事振りに敬意を払おうと思う。その上でお願いしたいのは、誤魔化す金額についてはそれくらいでやめてもらいたいと言うことと、新たに下した命令についてはコレまで以上に注意を払って欲しいということだ。資金については心配しなくいい」 クンデンホルン大公家やガリア貴族の好事家達にサラマンダーなどの珍しい生物やモグラに掘り起こさせた宝飾を主に売って資金を都合しているのだが、 それが国庫から横領された資金なのか領民に重税を課して溜め込んだものなのか借金をしているのかまではジョルノの知る所ではなかった。 また害を知りながら麻薬をやって破産する大人が増えようと、彼等個人の自由… 男、クリストファーは声のする方にお辞儀をする。 「お前が望んでいた異世界の書物は既に君の鞄に入れておいた。それは全五巻の内の一巻になる……今後もやってくれるな?」 クリストファーは慌てて邪魔にならぬよう荷物棚に置いていた鞄を手元に引きよせ、知らぬ間に入っていた本を興奮で震える手に取った。 「おお、ボス! ご随意に叶うよう務めさせていただきます」 「何度も言葉を重ねてすまないが、例の件については注意点さえ遵守してくれれば金に糸目はつけない。君の判断で使え……そうだな。ロマリアの教会を全て買い取る気でいろ」 目をみはったクリストファーは、だが直ぐに『手配いたします』と答えて予定の場所へと馬車を走らせていった。 ジョルノの入った亀を入れた箱は男の手で馬車から下ろされた。 馬に乗った貴族がそれを拾い上げ、都市の郊外ある王族の居城、ヴェルサルテイル宮殿へ向けて走りだした。 世界中から招かれた建築家や造園師の手による様々な増築物によって現在も拡大を続けている宮殿の一角にあるプチ・トロワの主に、箱は渡された。 北花壇騎士団の一人から亀の入った箱を受け取ったイザベラは、自室の中で箱を開けて鍵を甲羅に嵌めた奇妙な亀をおっかなびっくり絨毯の上に置いた。 期待の込められた眼差しの先で、亀の中から細長い指が這い出す。腕、肩…一人の人間が亀の中から出てきてイザベラを見下ろす。 置くなり、亀に嵌められた鍵から出てきたジョルノを見た彼女は不満そうな表情だった。 「遅かったじゃないか」 「今まで以上に人目を避けなければならなくなったんです」 不満を口にしたものの、久しぶりに会うイザベラは、別れる前に見たものよりも僅かに柔らかい笑みでジョルノに椅子を勧め、自分は自分のベッドに腰掛けた。 「…エレーヌとはうまくやってるよ」 ペットショップを通じての定期的な連絡でも釘をさしていたせいかイザベラは口を開くなりそう言った。 「? タバサですか…そんな風に呼んでたんですね」 「ま、まあね。仲良くしろって言ったのはお前じゃないか」 若干照れくさそうにするイザベラの様子を見て、ジョルノは根掘り葉掘り別れたからの暮らしぶりを尋ねた。 ある程度はペットショップを通じて聞いていたので、本当はまず仕事の話からと考えていた。 だが今は勧められた椅子に腰掛けて話しに耳を傾けた。 ジョゼフの豹変以来、元々味方が少なかった彼女に味方はいなくなった。 得体の知れぬ父ジョゼフですら豹変させた犯人への恐れが、他者を信用できなくしてしまった。 その反面、無意識に味方を求めてタバサとの距離を縮めているのかもしれない。 多少自覚があるのか、イザベラは父親が心変わりしたからとか、叔母が元通りになったからとか、色々な理由をつけていた。 (実際にそれらの出来事も影響しているのだろうが)それはともかくタバサとの関係は修復されつつあった。 話を聞く限り、タバサの母であるオルレアン公爵夫人の働きかけも強い影響を与えたようだ。 夫を殺し、娘を冷遇し、当人には毒を飲ませた男とその娘を許し、今はイザベラを娘同然に可愛がっているという話は、ジョルノにとっても驚きだった。 ジョゼフの手腕によって暗闘は起きないだろうと考えてはいたが、許すという可能性は無いと思っていたのだ。 若干和らいだ表情を見せるイザベラに、ジョルノの口元は爽やかな笑みを形作っていた。 「ジョナサンがもっと早く着いてれば叔母様の手料理も味わえたろうに、残念だったね」 「貴女の変りようを見れただけで十分です。公爵夫人にはまた後日お会いする事にしましょう」 「別人みたいだっていいたそうね」 「そんなことはありません」 ジョルノ返事を世辞と受け取ったイザベラは苦笑した。 彼女自身、自分の変化に驚いているらしかった。 「父があの男に変えられてしまったせいでこんな事になるなんてね…」 「その事ですが、イザベラ…貴女の力を貸してください」 そう言って語りだすジョルノに、今度はイザベラが耳を傾けた。 イザベラの父ジョゼフを変えてしまったプッチとの間にあった出来事の諸々をジョルノはイザベラに明かした。 「僕はティファニアに、プッチは教皇に召喚された人間です」 プッチ枢機卿とヴァリエール公爵夫人の会話内容や、ジョルノとプッチが異世界から来たという事までも。 秘密を明かされたイザベラは、明かされた内容に驚くよりも荒唐無稽な話の無いように半信半疑に陥っていった。 内容自体はそう長いものではなかった為、すぐに全て話し終えてしまったジョルノは椅子にもたれかかってイザベラの気持ちが落ち着くのを待った。 「それで、ジョナサンは私の力が必要だって言うんだね?」 「秘密裏に制約(ギアス)がかけられた者達を調べ上げ、解除したい。貴女の北花壇騎士団にならそれが可能な者達がいるはずです」 粗野な仕草で頭をかきむしりながら、イザベラは『実は僕は地球人なんです』とか言い出した男を見た。 エレーヌ母娘と和解したせいだろうか? 多少憎からず思っているせいで、こんな馬鹿馬鹿しい話まで信じる気になっている自分に彼女は自嘲気味な笑みを浮かべた。 「資金などはこちらが全て負担します。他に何か必要なものがあれば言ってください」 「いいえ、ある程度はこちらで持つわ。ガリアにも関係のあることですもの」 父親のことや、恐らくそれ以外にもガリアにも彼等の手が伸びていることを思うイザベラの顔には怒りとも悲しみとも取れぬ複雑な表情をしていた。 「でも、ジョナサンの命を聞くように言っておくからその分彼等への追加報酬を払って。それと事が終わったら私とエレーヌのお供をしてちょうだい」 「…お供ですか?」 「そう、テファには内緒にしてあげる。悪い条件ではないわよね」 「わかりました(別に内緒にしなくても構いませんが)」 「一番腕の立つ連中を手配して置くわ」 二つ返事で答えたジョルノに気を良くしたらしいイザベラは腰掛けていたベッドに倒れこんでいった。 非公式な騎士団とはいえ、普通王族に杖を捧げる貴族が外国人であるところのジョルノの命令に簡単に従うはずは無いのだが…イザベラの配下であれば、ジョルノにも心当たりがあった。 「結構です。その者達ですが『元素の兄弟』ですね?」 「流石は『ボス』ね。そう、残虐で狡猾な連中だけど、汚れ仕事に関しては一番だわ」 ジョルノが北花壇騎士団の人員について知っているらしいのを、イザベラは驚くと同時に何処か誇らしげに言う。 イザベラは杖を振って、用意させておいたビスケットとワインをテーブルの上に運ぶ。 身振りでそれを勧め、ジョルノは亀の中からグラスを二つ取り出して注ぐと、ワールドを出してイザベラの元へ運ばせる。 二人はワインで喉を潤しながら、北花壇騎士団を使い行う仕事について暫し語り合った。 「そう言えば、手紙で言ってたスカウトした連中に賞を与えたいって書いていたけれど、本気かい?」 「はい、ネアポリス伯爵家から与えられた勲章を有難がる者は平民くらいなものでしょうからね」 ジョルノの下にはゲルマニアのネアポリス伯の領内を中心に、多数の研究員がいる。 彼等は今後多大な利益をジョルノに与えてくれるだろう。 現状彼等の地位は低い(コルベールの学園内の扱いを思い出してくださればわかっていただけるだろうが) それはこれまで目立った何かを生み出さなかったせいだ。 だが、今後は違う。 既にゲルマニアではコルベールらの技術を組み込んだ新しい船が作られているのだから。 それを見越してジョルノは彼等の中で特に目立った成果を挙げた者に勲章と賞与を与える事を決めていた。 が、平民ならそれで十分でも貴族に対しては名誉として受け取れられないのだった。 同じ貴族、それもゲルマニアの伯爵家が作った賞など何百年という伝統と格式を持つ貴族達には何の価値もないのだ。 「やめた方がいいわね。10年もしないうちにジョナサンの与える賞が権威を持つようになる…エレーヌの意見だけどね。私達はそうしてみせるわ」 「…ネアポリス伯爵の名前では軽すぎる」 物分りの悪いジョルノにイザベラは目つきを険しくする。 「後になれば、価値を持つはずよ…!! 大体、そんなことをしたらジョナサンの所にいる人間にばかり賞を与えることになるじゃない」 「わかりました…」 ベッドに寝そべって頬杖をつくイザベラへ目を向けたまま、ジョルノはそう言って押し黙ってしまった。 強い口調でイザベラが返したとおり、コルベールのような人間はジョルノが抱え込んでしまっていて他の場所には賞を作ったとしても与えられるような者は一人としていなかった。 こればかりはジョルノ自身が抱え込んだせいで、それを思い出したジョルノはこれ以上その件で食い下がる事は出来なかった。 今まで仕事の話しばかりしていたせいで考えもしていなかったが、間が出来たことで辺りの静けさが部屋の中に漂っていた。残念がっているジョルノと、そこでイザベラは初めて、今の自分の姿は男性を前にして少しばかり無防備過ぎることに気付いた。 一度意識すると、その気性と立場のせいで決して男性馴れしているとは言えない上に、父親から余り省みられなかった彼女が気持ちを静めるのは不可能な事だった。 ジョルノはその様子に気付かないふりをして椅子から立ち上がり、グラスを片付けにかかった。 「…後の話は明日にしましょう、そろそろお暇しなければ」 「はぁ?」 スタンドで強引に奪うこともできたが、ジョルノはイザベラのグラスを取りに行った。 「せ、せっかく久しぶりに会ったんだし、もう少し……貴方の事が知りたいわ。もっと話を聞かせて」 ベッドの上でグラスを抱え、身を硬くしながらではあったが、引き止めようとするイザベラにジョルノは困ったような顔で動きを止めた。 「…先ほど説明した通りです。詳しくは知らない方がいい」 上目遣いに自分を見るイザベラにジョルノは爽やかな笑顔を向けるだけだった。 「返してください。僕は責任を取る事ができない男ですから、貴女に触れる気はこれっぽっちもありません」 ジョルノの言い草にイザベラの頭には血が昇り、グラスを持つ手には余計に力が篭っていった。どうやってかジョルノに意趣返しをしたい…恥らいと好意を怒りで誤魔化してイザベラはそう考えた。 「そんなことわからないだろッ? 今だけ心からなんて言って…それでテファやヴァリエールは納得してるんじゃあないのかい?」 悪びれた様子もなくジョルノは首を振った。 「僕が大事にしている気持ちは二つあります。最も強い気持ちは夢を叶えたいという気持ち。で、次が仲間に対する気持ち。異性に対する愛情はその下にあります」 「相手が誰でも?」 「寝ても覚めても」 そう答えたジョルノの表情は爽やかな色が強く現れていてイザベラの怒りを誘った。 その爽やかさや目を輝かせていることは全て夢のせいでありガリアという大国の王女も、年頃の娘も、イザベラのことは見ていないように感じられた。 正直に夢の事を告げたのは今のイザベラを好意的に思っているからだったが、恥をかかされる側にとっては何の慰めにもならなかった。だからか…グラスを受け取り、身を引こうとするジョルノの腕をイザベラが掴む。 「イザベラ? 離してくれ」 次はいつ会えるとも知れないジョルノをイザベラは彼を掴む指まで赤くして上目に見つめていた。 天蓋が作る影の中に見える顔は、普段よりずっと幼いようにジョルノの目には映った。 そのせいで一手、ジョルノは遅れた。魔法によって灯りが消される瞬間、やんわりと手を退けようとするジョルノが見たのは、一転して不敵に笑うイザベラの顔だった。 素早く身を起こしたイザベラは更に手を伸ばしてジョルノに組み付き、耳元で囁く。イザベラは上擦った声でこう言った。 「つ、つまり―逆に考えるんだね。他の女も大差ないから逆にチャンスだって考えるわけさ」 「え…?」 「今夜は帰さないわ」 組み付いた状態から、イザベラは杖を振るった。珍しく戸惑いを見せたジョルノの体が魔法でベッドの上に転ばされ態勢が入れ替わる。 ジョルノの手からグラスが抜けて、僅かに残っていたワインが宙を舞った。 「ジョナサン、勿論覚悟して来てるわよね? 夜更けに淑女の部屋を訪ねるって事は押し倒される覚悟は出来てるってことね」 「いえそういうわけじゃないんですが…」 まだ残っていたワインが純白のシーツの上に広がっていき、アルコールの匂いが周囲に漂う。 もう夜更けに差し掛かっていたが、逆に考えると朝まではまだたっぷりと時間があるのだった。 微かに入る月明かりでぼんやり浮かぶイザベラは少し広いおでこから指先まで赤く染めあがっている。 恥かしさや上手く引き止められないもどかしさからか、彼女は開き直り、どこかで仕入れた知識の元に暴走しているらしい。 近づいてくるイザベラの唇をかわし、ジョルノは彼女の頭を星型の字の傍へと引き寄せた。 逃げてしまうとまだ考えているらしく腕の中で暴れようとする彼女を包むようにして、ジョルノはぽつぽつと話を始めた。 素晴らしい仲間の事や、ポルナレフに以前聞いたエジプトへの旅をかいつまんで、多少のアドリブを交えて話してやるのだった。 眠るイザベラの部屋からジョルノが服装を整えて出てくるのは、それから実に4時間も後の事だった。 「休む時間がなくなってしまったな…(もしもの時の為に)これは組織としては改善しなければならないな」 満足したイザベラを寝かせるまで休む事が出来なかったがジョルノに疲労感はなかった。 夢は彼の心を潤し、彼の血統は彼の体に力強い生命の力を齎している。 「イザベラの事は後でポルナレフさんに相談するか…」 亀の中に移り、ジョルノは再びリュティスへと消えていった。 * その頃、ジョルノに盗聴されていたことをまだ知らないプッチ枢機卿はゲルマニアへと向かって移動していた。 トリスティンの王女アンリエッタとゲルマニア皇帝の結婚に立ち会う為で、このまま進めばかなりの余裕を持って現地入りできることになっている。 プッチ枢機卿はそこで、一月近くにも渡りゲルマニアの重鎮達と会談を行う運びとなっていた。 勿論そこでも隙在らば彼らは禁呪を用いて保険をかけることだろう… 竜籠に載り、周囲に厳重な警備を敷いて移動する彼の手には始祖の祈祷書と呼ばれるトリスティンの秘宝があった。 トリスティン王室の伝統で、王族の結婚の際には貴族から巫女を選び、始祖の祈祷書を手に式の詔を読み上げる慣わしになっている。 常人にの目にはただの白紙の紙束にしか見えない。 プッチにとってもそれは同じだが、始祖に対して良い感情を持っていない彼にとっては便器の中のトイレットペーパーにも劣るゴミだ。 だが虚無の使い手…プッチを召喚し、プッチにディスクを抜かれいいようにされている教皇には、教皇が必要とする呪文が浮かび上がっているらしい。 「では教皇、お願いしたよ」 「わかりました。プッチ神父、『エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル』」 自らの使い魔のお願いを快く引き受けた教皇は杖を振り下ろした。 『エクスプロージョン』 トイレットペーパーが無事消滅するのを見届けてプッチは満足そうに言う。 「これで後は何が残っていたかな?」 「土のルビーは先日我がロマリアの秘宝と共に消しましたし、香炉は『世界扉』で貴方の世界に送りましたから。火、風、水のルビー、始祖のオルゴールですね」 「うむ、ゴミは夢の島にだったな。こちらの道具も『世界扉』を抜けられる事がわかった。オルゴールについてはジョルノ・ジョバァーナに頼む事にするとして、火のルビーの行方が気になるな」 これで帰るまでに幾つか便利な道具を向こうへ持ち帰ることもできるということがわかった。 これはジョースターの血統と対決する役に立つ可能性を秘めている。実に結構な事だった。 4の4もこれで揃わない…一先ずは安心できるということでもある。 だが完全に安心、というわけではない。 異世界から自分達を誘拐した魔法の中に時間を越える類のものがないとも限らないからだ。 可能性があるというだけのことだが、安心の為に念には念を入れて置かなければならない。 「グンデンタールからは見つかりませんでした。実行した者達が持っているのかもしれません」 「ではその者達を捕らえてくれたまえ」 「わかりました」 「後はええっと、なんだ、さっき消してもらったのの偽物の用意も頼む…修道院の小娘は?」 「確実に消しておきました」 「それは結構なことだ。ヴァリエール公爵夫人はどうしたかね?」 神父が尋ねると、今度は隅に控えていた神官が前に出て報告を始める。 「遍在の一つが聖女ルイズの下を訪れたようです。様子を見にきただけのようですが…」 「亀はどうした? サイトは?」 「少々お待ちを…ティファニア王女の下に向かう姿が確認された位で、特に新しい動きはありません」 禁呪を用いて忠実な駒となった彼等の報告を受けて、プッチは思案顔を作る。 カリンが亀の中にいるポルナレフにプッチの思惑を告げ、協力を仰いだのかもしれない。 ティファニアのところに行って何をしているのかも調べさせたい所だが、ネアポリス伯爵家…パッショーネの内部まではロマリアの密偵は浸透していないためそれ以上の詳しい情報は入らないのだろう。 ゲルマニアも信仰心が薄いが、パッショーネの内部は更に信仰心が薄いせいだった。 懺悔にも来なければ忙殺されていて日曜礼拝にさえ来ない…聞いた所に拠ればキリスト教の聖書を読む者までいるとかいう話しさえある。 「ガリアに向かったジョジョはどうしている?」 「ネアポリス伯爵が大量の資金を動かし何か行動を開始していると…」 「…ヴァリエール公爵家と接触した形跡はあるかね?」 「いえ、次女がガリアに向かっていると言う報告がありますが」 あの後にジョルノとカリンが接触を持った形跡がないのを確認し、プッチは今後どう動くかを黙考する。 ついでにポルナレフを始末するにはどうすればよいだろうか? 「……甘やかせ」 「は?」 不意に言ったためか、間抜けな声を出したメイジが恐縮するのを無視しプッチは言葉を続ける。 「聖女ルイズを褒め称え、何から何まで世話して差し上げろ。我々の助けがあって当然。なければ何も出来ないようになるまでだ」 「御意に」 「成長の機会を絶対に与えるな…! 亀達が見限るように仕向けるのだ」 それだけ命じると、プッチは汚れを気にしているのか、芝居がかった身振りで指をこすり合わせた。 「あぁそれと、ワインが飲みたいのだが、その前に手を洗う水を用意してくれないかね?」 先ほど間抜けな声を上げたメイジが急いで杖を振るい、清潔な布と水がプッチの手元へ運ばれてくる。 プッチは上機嫌でゲルマニアまでの空の旅を楽みながら、今後のことを考えていた。 「やはり虚無の血を引く可能性がある人間を消しておくのが無難か? ゲルマニア皇帝には子孫を残すための女を別に宛がうとして…ジョルノと私が帰った後、王族達には皆自殺してもらう必要があるな」 to be continued...
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舞踏会から数日後、朝早くにルイズは一人広場へ向かっていた。 そろそろ身支度をする生徒や一足速くアルヴィースの食堂へと向かう生徒達とすれ違うルイズの表情は浮かないものだった。 一足速く食堂へと向かう生徒達の目的は友人との語らいや耐え切れない空腹だ。 朝食は出ないが、そこで生徒や教員全員の食事を用意するため忙しなく働くメイド達に命令すれば、紅茶やワインなどを要求できないこともないからだ… そんな彼らと逆の方向へと、ルイズが今一人で広場に向かっているのは新しい使い魔を召喚するためだった。 使い魔は、原則的には一度契約したら死に別れるまでメイジのパートナーになる。 その儀式はとても神聖なものとして扱われているけれど…エルフとの戦争を始め、使い魔が死んでしまう事っていうのは前例が無いわけではなかった。 むしろ、戦争時代にはよくあることだったが…まだ使い魔がピンピンしているのに新たな使い魔を召喚する、というのは学院の歴史始まって以来のことであった。 それに挑むルイズの表情は曇っていた。 ポルナレフのせいだった。 ルイズは、ポルナレフとは舞踏会の後も余り話せていなかった。 それとなく探してみたのだが、ポルナレフの方がその状態になかった。 まだマチルダが亀の中にいるというのもあるし、再会するまでの間に起きた出来事についてポルナレフはジョルノと話し合わなければならなかった。 イザベラとの一件を見ていただけにギャングの話は、激昂するマチルダを抑えながらでも最優先で話し合わなければならなかったのだ。 そんなポルナレフにジョルノが話したのは、麻薬だけでは金がすっからかんになりそうだったんで表の事業を広げているだとか、人材のスカウトと育成に忙しいとか、そういう話だった。 本当はそれだけではないだろうなとはポルナレフも思っていたが、今はジョルノを信じて確かめない事にしていた。 その場には、仕事を覚えようと張り切っているテファもいたから話にくいだろうと、ポルナレフは年上の余裕でもって察してやったのだった。 実際、この時はそれは外れてはいなかった。 スカウトした人材にこの学院のコルベールや卒業する生徒も入っているとか昨夜は幹部を拷問しましたなんて言えるわけも無い。 だがそんなことはルイズの知る由も無い事で、主人をないがしろにするポルナレフに対して更に怒りが沸いた。 その怒りはルイズの気難しい気性と結びつき…あの馬鹿、優しいご主人様がどうしても使い魔になりたいっていうなら許してあげようかと思ったのにどこで油を売ってるのかしら? そう思いながら、ルイズは最後には意地になってポルナレフから話しかけてくるのを待つようになってしまったのだった。 今も未だその鬱屈した感情を引き摺ったままのルイズを、なぜか目の下に隈を作ったマリコルヌが待ち構えていた。 マリコルヌは何故か冷めた目でルイズを見下していた。 気分が優れなかったルイズの神経を酷く逆撫でする目つきだった。今までにも嘲笑われた事はあった。 ルイズのコレまでの人生はそればかりだったが…でもそれとは違うように、その時ルイズは感じた。 ゼロ(魔法が使えない)だからとかじゃあない、汚らわしいものでも見るような目だった…! 目の下の隈だけじゃない、脂肪たっぷりで気付かなかったけど良く見ればほんのちょっぴりこけた頬。 細い目でルイズを見下ろしながら、そのでぶは言った。 「なんだい? 視界に入ったからただ見下していただけなんだけどな」 「あんたなんかに見下されるいわれはないわッ! 大体、どうしてアンタがここにいるのよッ!!」 そう聞いた瞬間、マリコルヌの目が鋭い輝きを放ったようにルイズは感じた。 「僕のクヴァーシルが殺されたからだ」 簡潔に言ったマリコルヌはルイズを相変わらず見下ろして言う。 その声は一年以上同じ学年で過ごし、つい先日までのマリコルヌの声を知るルイズには一気に十年以上も年を取ったような声に聞こえた。 本当にグヴァーシルは死んだのだと言う実感がルイズが言い返すのを一瞬遅らせた。 「一つ言わせて貰うなら…(これは僕が使い魔を召喚する時の為にお爺様から聞いた話なんだけど) 優秀なメイジの中には最初はまだ未熟で使い魔を制御できない人もいるんだ」 「…そ、そんなこと、アンタに言われなくっても知ってるわ」 そんな事はルイズもこの学院に来て魔法を覚える為に自分で学習する過程で知っていた。 才能のあるメイジの中には、稀にはその時は未熟であるにも関わらず幻獣、例えばタバサのようにドラゴンを呼んでしまった場合もある。 使い魔は主人のいいように記憶を、脳内の情報全てを変えられる。 その効果は時間が経つにつれ強くなり、最後は一心同体となる。 だが高い知能を有する使い魔を呼んでしまった場合、すぐには認められないことがある。 極端な例を出すなら、犬っころを召喚したトライアングルの横でドラゴンの自分がドットの使い魔であることに不満を覚え反抗したりする。 それもルイズ達の見えないところでシルフィードがタバサに不満を言ったりする程度からそれ以上までだったが。 だが… 「その人達は自分を磨いて使い魔に自分を認めさせようとするけど、ゼロのルイズは新しい使い魔を呼ぶんだな。僕のクヴァーシルを殺した水のメイジが同じレベルのメイジなら楽なんだけどな」 油の浮いた唇を歪ませてマリコルヌはルイズに背中を向け、新しい使い魔を召喚しに行く。 マリコルヌにはクヴァーシルは氷に、ウィンディ・アイシクルのような魔法で殺されたことだけは感覚としてわかっていた。 夜の森に散歩に出ていたクヴァーシルに何があったのかはわからない。 殺されるような理由があったかどうかも、なにもわからないがマリコルヌにはわかる必要も無かった。 ただクヴァーシルのものと思われる食い荒らされた遺体がマリコルヌの瞼に浮かんでいた。 普段どおり手元においておけばあんなことにはならなかった… あの夜。夜の森には危険な動物もいるのにそんなことは考えずに今夜は舞踏会だしと、マリコルヌは羽目を外してしまった。 歯軋りをするマリコルヌの心は復讐へと傾いていた。 追悼する気持も無く悲しみを一人で整理する事も出来ず、マリコルヌはまだ見ぬ加害者を憎む事だけに専念していた。 そうしなければ、マリコルヌは精神のバランスを保つ事ができなかった。 ルイズへ吐いた言葉は、氷で殺されたから多分水のメイジと言う推理を正しいと信じ、学院にいる水のメイジ全てに懐疑の目を向けるだけに飽き足らず、 はけ口を求めわかったようなふりでその刺々しさをルイズに向けて撒き散らしているだけだった。 暴走が水のメイジとの仲を悪くすることには無頓着になり、ペットショップからは逆に離れていく事にはマリコルヌは気付けなかった。 そんなマリコルヌに見下されたルイズは、反感を覚えると共に酷くショックを受けていた。 一理ある。そう思ってしまったからだ。 魔法を使えることを証明し、皆に認められたい…だが、使い魔に認められず騙されたまま新しい使い魔を召喚して、はたしてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは真に貴族と呼べるだろうか? 正しく…ルイズが今までに培ってきた正しいと考えるオーソドックスなメイジのイメージが、ルイズにそんな疑念を抱かせていた。 ルイズは疑念に囚われ使い魔召喚の儀式に向かう足を止めた。 新しく使い魔を召喚する羽目になったのはルイズの責任ではない。 元の飼い主が現れたし、亀の中の人に騙されていたし、そもそも契約も結んでいないのだ。 客観的にルイズは全く落ち度は無い。 他人が聞けばそういうだろうが、しかし…とルイズは思ってしまうのだった。 だが母ならこんなことには、と。 自分がゼロだから、こんな情けないことになっている…そうルイズは考えてしまっていた。 「あらルイズ。貴方まだこんな所にいたの?」 自慢のフレイムに乗り、隣室の(実家もお隣の)ツェルプストーに話しかけられ、振り向いたルイズの表情には迷いが浮かんでいた。 ポルナレフともう一度話し合うことを勧めに来たキュルケはそれを見て、笑顔で迷っているルイズの意地っ張りな性格を突付きにフレイムをルイズの所に進ませる。 まだ見込みはある。そう思えたからだった。 宿敵であるツェルプストーの人間から言われた言葉に、ルイズは反発してしまうかもしれないと思ったが、キュルケはルイズを説得せずにはいられなかった。 * ところでそのルイズの使い魔だった男。 パッショーネ所有の亀ココ・ジャンボの中で眠っていたジャン=ピエール・ポルナレフ(享年36歳)は、金的に加えられた男性にしか理解できない強烈な衝撃で目を覚ましていた。 とてもいい夢を見ていたような気がする。 それは最愛の妹と暮らした日々だったかもしれない。 カイロへ向かうつらい旅の夢だったかもしれない。 だが、それが突然…言葉にできない痛みと共に現実へと連れ戻された。 「お…gッ」 痛みだの激痛だのというチャチなもんじゃない。 身もだえする事も出来ず、ポルナレフは床をのた打ち回る。 声にならない悲鳴を上げながらどうにか周囲を見回したポルナレフの視界に、グンパツな足が入った。 「何でアンタがあたしの横で寝てるんだいッ!!」 「………あ、姉さんが昨日俺に愚痴とか苦労話とかテファとの話とかをしてそのまま酔いつぶれたからだ」 「…え?」 丸くなりながら、ポルナレフはそれだけ言った。 妹を不本意な形で取られたマチルダは、学院にいる間は亀の中から出られないという事情もありストレスが溜まっていた。 ポルナレフは年上の男性として、それなりの人生経験からそれを察しストレス発散にと酒を飲みながら話を聞き、そのままマチルダは酔いつぶれたのだったが… 青い顔で蹲るポルナレフをマチルダはばつが悪そうに見下ろす。 なんでココにいるかとか、昨夜どうしていたかとか、冷静になり思い出したマチルダは痙攣するポルナレフの背中を摩りはじめた。 「わ、悪かったね」 何か返事をしたいが、先程の返事だけでポルナレフの体力は限界を迎えていた。 痛みなどという段階を超越した苦しみに悶えながら、ただ痛みが引くのを待つしかない。 なんで魂だけなのにこんなに痛いんだよッ!!とか色々と疑問も浮かんだが考える事なんてできるわけがないッ!! それでも返事を返そうとしたポルナレフの口からうめき声があがる。 びっくりして思わず手を退いたマチルダは、更にもっとばつが悪くなりポルナレフの背中を笑顔で摩り続ける。 テファ達と朝食に向かう前に亀の中へと入ってきたジョルノは、そんな光景に出くわして… 絨毯に蹲ったまま空気の動きに気付き顔を上げたポルナレフと目を合わせた。 ポルナレフの体勢、マチルダの態度。 何より脂汗をたっぷり流し、笑顔を浮かべようとして失敗するポルナレフの切ない目が、何があったのかを雄弁にジョルノに伝えていた。 ジョルノは何も言わずに首を振ると、後で食事を亀の中に入れることを簡潔に次げて背を向けた。 ポルナレフはまた限界に達し、顔を伏せた。 「ああ、そうだ。ポルナレフさん」 「…?」 男の尊厳が砕けたかもしれないと本気で心配をし始めながらポルナレフは、背中を摩られながらジョルノを見る。 さっさといけよと八つ当たり気味に目を細めるポルナレフにジョルノは嫌味なほど爽やかに笑っていた。 「テファの事は、この際です。礼を言っておきます。ありがとう。お陰でテファの事は知られていないようです」 「き…きにす、すんな。俺が好きでやったことだから、な」 亀から出て行くジョルノを見送り、ポルナレフはまた蹲る。 状態は最悪だったが、先日テファを手伝った事が無駄ではなかったので気分は良かった。 「お待たせしました。じゃあいきましょうか」 「う、うん。姉さん、まだ怒ってた?」 「いいえ、ポルナレフさんと仲良くなったようですよ」 それは少し違うと言いたかったが、ポルナレフは歯を食い縛るので精一杯だった。 ジョルノが、いつか約束した通りテファとタバサと共に食事しながら、ヴァリエール家を始めとする懇意にしている貴族達や、商売相手からの手紙を読む頃。 「食事中は、止めた方がいい」などとタバサに窘められ、カトレアからの甘ったるい…しかし少なからずヴァリエール家の内部情報を含んだ手紙に目を通している時、二人が新しい使い魔を召喚することを聞きつけたのだろう。 ルイズとマリコルヌの新しい使い魔を見ようとしてか、暇そうなな学生達が何人か広場にはいた。 マリコルヌだけでなく、一旦は思い直しかけたルイズもいる。 キュルケの説得は、逆の効果をルイズに齎してしまい、ルイズは「別に新しい使い魔がいてもポルナレフに認めさせることはできるんじゃねーの?」と思い至ってしまった。 ルイズとマリコルヌは彼らと頭部からの照り返しがまるで太陽を雲で遮られたかのように和らいだコルベールに見守られながら、魔法を唱えはじ… 「あの、ミスタコルベール」 思わずルイズは尋ねようとした。 その頭部を見つめながら…コルベールは凄くイイ笑顔をしていた。 「なんですかな」 「頭「なんですかな?」い、いえ…」 笑顔のコルベールの凄味に負けた二人は同時に召喚を開始する。 魔法が失敗した時と同じようにルイズが唱え終わるとほぼ同時に爆発が起こった。 巻き上がる砂埃に紛れ、既にそんなことには慣れきっているこの場に居合わせた者達の目には二つの物体が吹き飛ばされ、広場に転がっているのが見えていた。 一匹は愛らしい子鳥。爆発に巻き込まれ羽は汚れ、気絶してしまっている。 もう一人は華奢な、変わった衣服を身につけ四角い箱を後生大事に抱えた人間の男。 こちらは気絶してはいないようだが、まだ状況がつかめないのが動けないでいた。 …ルイズは目を見開き、そして迷うことなく小鳥の前で膝を突き、口付けて契約を終えた。 そして誰かが口を挟む前に、鋭い声を発してコルベールに報告する。 「ミスタコルベール!確認を「ちょっと待て!?どう考えたってそれ僕の使い魔だよ!」 一歩遅れたマリコルヌの叫びをルイズは鼻で笑った。 手の中に納めた自分の使い魔を撫でながら、ルイズは言う。 「何バカなこと言ってるの?既に…ここにある確かなルーンが見えないのかしら?そうですよね。ミスタコルベール」 「ヴ、まあ…そ、それはそうだけどね?」 「で、でも…」 さっき嫌味なんか言わなきゃよかったと考えないでもないマリコルヌに目もくれず、ルイズは爆風で乱れた桃色がかった髪を手で梳きながら立ち上がる。 誰も、何も言えない。 もう契約は為されてしまいルイズに他の使い魔を与えるには小鳥を殺すしかない。 だがそれは流石にはばかられたし、この後マリコルヌがどうするのか皆着になっていた。 そんな中をルイズは堂々と小鳥を連れて広場を後にし、まだ気絶している人間とマリコルヌが…その場に残された。 マリコルヌは救いを求めコルベールを見る。 コルベールは何も言わず、首を振った。 使い魔が死んだら仕方が無いし、契約が済んでいない使い魔に持ち主が現れたら…まぁある意味仕方ないだろう。 神聖な儀式とはいえ、いや神聖だからこそ他人のペットを強奪して使役するなどという前例は残したくない。 それらのケースと召喚された使い魔が気に入らないからもう一度召喚させてくださいというのを同列に扱うわけにはいかないのだ。 そんなことを許可してしまえば、極端な事を言えば自分の気に入った使い魔が出るまで召喚を行う生徒だって出るかもしれない。 可能性の問題だが、それで毎年二回、三回と召喚をやり直す生徒が出てしまうような前例を残すわけにはいかない。 コルベールは、せめて速く終るようにとまだ状況がつかめていない見慣れぬ服装をした少年を拘束する。 余りの哀れさに、コルベールは溢れてくる涙を止める事が出来なかった。 だがしかし…それでも、心を鬼にして混乱する少年を拘束しなければならなかった。 ズッキューンッ!! 「や、やった! 流石風上のマリコルヌッ、俺達に出来ない事を平然とやってのけるゥッ!! そこに痺れる憧れるゥッ!!」 かなり奇妙な何かが重なり合った音と、おぞましい身も毛もよだつ絶叫。そして全くしゃれになってないが、茶化すような言葉が広場に響いた。 あ、ありのままいまおこったことをせつめいするぜ。 あきばからのーとぱそこんをかかえてかえろうとしたんだ。 そしたらとつぜんめのまえにかがみがあらわれてどこかにいどうしていた。 いつのまにか、からだはこうそくされていてまんとをつけたがいじんのでぶにきすされた。 …な、なにをいってるかわからねぇとおもうがおれにもなにがおこったのかわからなかった。 はじめてのきすはすきなおんなのこととかれもんのあじとかそんなあまずっぱいもんじゃだんじてなかった。 もっとおそろしいもののへんりんをあじわったぜ? To Be Bontinued...
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なんだかなぁ。 ニューカッスル城のバルコニーで黄昏ていたサイトは手すりにもたれかかりため息をついた。 ここにきた目的はもう半ばまで達成した。 ウェールズは城に着くとすぐに、サイト達を王族にしては質素な、学園のルイズの部屋の方が余程華美な部屋に通した。 首にかけていたネックレスの先についた鍵を差込、ウェールズは机の引き出しから取り出した箱を開けた。 蓋の内側には、アンリエッタの肖像が描かれている。 ウェールズはアンリエッタの肖像を感慨深げに見入る。 だがすぐに「宝箱でね」―ルイズ達がその箱を覗き込んでいることに気付き、彼ははにかんだ様子を見せた。 肖像から視線を下げると、中には一通の手紙が入っていた。 ウェールズはそれを取り出し、愛しそうに口づけたあと、開いてゆっくりと読み始めた。 固定化をかけられて風化することを忘れたその手紙はこれまで幾度もそうして読まれたものなのだろう。 そう想像したルイズ達は彼が読み終わるのをジッと待った。 読み返すと、ウェールズは再びその手紙を丁寧にたたみ、封筒に入れなおす。そしてルイズに手渡した。 「これが姫からいただいた手紙だ。このとおり、確かに返却したぞ」 「ありがとうございます」 ルイズは深々と頭を下げて恭しく手紙を受け取った。優しげに微笑みウェールズは言う。 「明日の朝、非戦闘員を乗せた『イーグル』号が、ここを出港する。それに乗って、トリステインに帰りなさい」 その手紙をじっと見つめていたルイズは、そのうちに決心したように口を開いた。 「あの、殿下……。さきほど、栄光ある敗北とおっしゃっていましたが、王軍に勝ち目はないのですか?」 ルイズは躊躇うように問うた。 至極あっさりと、ウェールズは答える。 「ないよ。我が軍は三百。敵軍は五万。万に一つの可能性もありえない。我々にできることは、はてさて、勇敢な死に様を連中に見せることだけだ」 ルイズは俯いた。 この城に到着した時、ウェールズの侍従を務めるバリーがウェールズ達を出迎えた。 長年皇太子の侍従を勤めてきたのであろう老メイジは、ウェールズがジョルノの船に積まれていた硫黄…『火の秘薬』を手に入れ帰還したことを泣いて喜び、こう言っていた。 「栄光ある敗北ですな! この老骨、武者震いがいたしますぞ。して、ご報告なのですが、叛徒どもは明日の正午に、攻城を開始するとの旨、伝えて参りました。まったく、殿下が間に合って、よかったですわい」 「してみると間一髪とはまさにこのこと! 戦に間に合わぬは、これ武人の恥だからな!」 そう、ウェールズ達は、心底楽しそうに笑いあっていた。 敗北という言葉に、顔色を変えるルイズや何を喜んでいるのか全く理解できていない様子のサイト達の前で。 思い返しながらルイズは尋ねた。 「殿下の、討ち死になさる様も、その中には含まれるのですか?」 「当然だ。私は真っ先に死ぬつもりだよ…」 傍でやりとりを見ていたサイトがため息をついた。 明日にも死ぬというときなのに、皇太子はいささかも取り乱したところがない。 現実感がないのか、サイトは船に乗せてもらったアズーロの元へと戻りたそうな表情で周囲へと目を向けていた。 彼らから少し離れた場所に立っていたジョルノは、鋭く輝く目でウェールズを見ていた。 ウェールズはその視線に気付き、苦しそうに顔を歪ませる…二人の間に、サイトは知らない何かがあるようだった。 それにルイズは気付かなかったようだ。 ルイズは深々と頭を垂れて、ウェールズに一礼していた。言いたいことがあるのだった。 「殿下……、失礼をお許しください。恐れながら、申し上げたいことがございます」 「なんなりと、申してみよ」 「この、ただいまお預かりした手紙の内容、これは……」 「ルイズ」 俯いたルイズの隣に立っていたワルドが咎めるように声を上げた。 ルイズが訪ねていい事柄ではないと帽子を持っていない手で肩に手を置く。 でも、とルイズは、きっと顔を上げてウェールズに尋ねた。 「この任務をわたくしに仰せつけられた際の姫さまのご様子、尋常ではございませんでした。 そう、まるで、恋人を案じるような……。それに、先ほどの小箱の内蓋には、姫さまの肖像が描かれておりました。 手紙に接吻なさった際の殿下の物憂げなお顔といい、もしや、姫さまと、ウェールズ皇太子殿下は……」 言いたいことを察してウェールズは微笑んだ。 「きみは、従妹のアンリエッタと、この私が恋仲であったと言いたいのかね?」 真摯な態度でルイズは頷いた。 「そう想像いたしました。とんだご無礼を、お許しください。してみると、この手紙の内容とやらは……」 ウェールズは額に手を当て、言おうか言うまいか、ちょっと悩んだ仕草をした後言った。 「恋文だよ。きみが想像しているとおりのものさ。確かにアンリエッタが手紙で知らせたように、この恋文がゲルマニアの皇室に渡っては、まずいことになる。 なにせ、彼女は始祖ブリミルの名おいて、永久の愛を私に誓っているのだからね。 知ってのとおり、始祖に誓う愛は、婚姻の際の誓いでなければならぬ。この手紙が白日の下にさらされたならば、彼女は重婚の罪を犯すことになってしまうであろう。 ゲルマニアの皇帝は、重婚を犯した姫との婚約は取り消すに違いない。そうなれば、なるほど同盟相成らず。トリステインは一国にて、あの恐るべき貴族派に立ち向かわねばなるまい」 「とにかく、姫さまは、殿下と恋仲であらせられたのですね?」 ルイズはウェールズとアンリエッタ、トリスティンとアルビオンの置かれた状況を無視して尋ねた。 その声に篭った熱を冷やすようにウェールズの返答は冷たい声音で返された。 「昔の話だ」 だがルイズは熱っぽい口調で、ウェールズに言う。 「殿下、亡命なされませ! トリステインに亡命なされませ!」 ジョルノと同じように離れて成り行きを見守っていたワルドが静かに寄り添いすっとルイズの肩に手を置いた。 しかしルイズの剣幕は納まらなかった。 ワルドの手を跳ね除けて、ルイズはウェールズに詰め寄った。 「お願いでございます! 私たちと共に、トリステインにいらしてくださいませ!」 「それはできんよ」 笑いながらウェールズは言った。 「殿下、これは私の願いではございませぬ! 姫さまの願いでございます! 姫さまの手紙には、そう書かれておりませんでしたか? わたくしは幼き頃、恐れ多くも姫さまのお遊び相手を務めさせていただきました! 姫さまの気性は大変よく存じております! あの姫さまがご自分の愛した人を見捨てるわけがございません! おっしゃってくださいな、殿下! 姫さまは、たぶん手紙の末尾であなたに亡命をお勧めになっているはずですわ!」 笑みを引っ込めて、ウェールズは首を振った。 「そのようなことは、一行も書かれていない」 「殿下!」 ルイズはウェールズに詰め寄った。 「私は王族だ。嘘はつかぬ。姫と、私の名誉に誓って言うが、ただの一行たりとも、私に亡命を勧めるような文句は書かれていない」 ウェールズの言葉は苦しげでその口ぶりから、ルイズの指摘が当たっていたことが窺える。 更に言い募ろうとするルイズを見て、ウェールズは自分の迂闊さに気付いたが彼は言葉を続けた。 「アンリエッタは王女だ。自分の都合を、国の大事に優先させるわけがない」 ルイズは、ウェールズの意思が果てしなくかたいのを見て取った。 ウェールズはアンリエッタを庇おうとしている。臣下の者に、アンリエッタが情に流された女と思われるのがイヤなのだろう、と。 ウェールズは、ルイズの肩を叩いた。 「きみは、正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。正直で、真っ直ぐで、いい目をしている」 ルイズは、寂しそうに俯いた。 「忠告しよう。そのように正直では大使は務まらぬよ。しっかりしなさい」 ウェールズは微笑んだ。白い歯がこぼれる。魅力的な笑みだった。 しかしながら、とウェールズは言う。 「亡国への大使としては適任かもしれぬ。明日に滅ぶ政府は、誰より正直だからね。なぜなら、名誉以外に守るものが他にないのだから」 それから机の上に置かれた、水がはられた盆の上に載った、針を見つめた。形からいって、それが時計であるらしかった。 「そろそろ、パーティの時間だ。きみたちは、我らが王国が迎える最後の客だ。是非とも出席してほしい」 ルイズ達は部屋の外に出た。 亀を抱えたジョルノと脱いだ帽子を持つワルドの二人が居残り、二人は目配せの後先にワルドからウェールズに一礼した。 「まだ、なにか御用がおありかな? 子爵殿」 「恐れながら、殿下にお願いしたい議がございます」 「なんなりとうかがおう」 ワルドはウェールズに、自分の願いを語って聞かせた。 自分とルイズが婚約者であること。そして、是非ともウェールズに媒酌をお願いしたいとワルドは言い、ウェールズはにっこりと笑った。 「なんともめでたい話ではないか。喜んでそのお役目を引き受けよう」 「ありがとうございます殿下」 「おいワルド…今の話、本気なのか?」 ジョルノに抱えられていた亀の中からポルナレフが尋ねた。 このロリコンがッと罵ったりはしない。 こういうのもありかもな。と志を同じくする者として応援するのも友情の一端であると、悲しい友情運を背負う男ポルナレフ36才は理解していた。 朗らかな笑みを浮かべたワルドは柄にもなく照れくさそうに答えた。 「勿論だ。兄弟、明日は是非君にも参列してもらいたい」 「勿論だぜ! いやぁ…ジョルノがお前がスパイかもしれないとか言い出した時はどうなるかと思ったが、無駄な心配だったみたいゲホッ…」 勢いあまったポルナレフの叫びは、一瞬で静まり返った部屋に良く響いた。 亀の中から、何かを殴る音が聞こえたが誰もそれについて言及しようとはしなかった。 一瞬笑顔のまま固まったワルドが声を絞り出す。 「何、だと…!?」 「ポルナレフ、アンタ…なんて事いうのよ!?」 「あ、ぁ…怒るなよ…こ、こいつもさ。任務でちょっと神経質になってたのさ」 油汗を流しながらジョルノを見るワルド、今にも亀を爆破しそうな剣幕で言うルイズにポルナレフの掠れた声がかけられる。 汗一つかかず、涼しい顔をしてジョルノはワルドを見返していた。 「そ、そうだな。伯爵閣下の年齢からすれば、それも仕方がない話か…」 そうしてワルドは嬉しそうに、だが慌しく部屋を去り、後には亀を持って佇んでいたジョルノとウェールズが残された。 ウェールズは穏やかな表情を浮かべたジョルノから、言葉にしがたい何かを感じて曖昧に微笑んだ。 ワルドを疑っているかどうかなど読み取れない静かな態度で、ジョルノはここへ来る途中話した亡命の件について切り出そうと口を開いた。 回想を止めサイトはもう一度深くため息をついた。 城に残っている人々の気持ちを、現代地球は日本で育ったサイトは理解できなかった。 最初、枢機卿に頼まれたのがきっかけでサイトはこの任務に参加した。 事情を知った今は、そんなのに付き合わされてポルナレフを死なせたくはないという気持ちがサイトの中で強くなっていた。 枢機卿から与えられた『ヴィンダールヴ』の能力を持っていたから…彼らが無事目的地にたどり着くのに一役買うこともできた。 右手を翳す。 雲に混じって空に浮かぶ、この城を包囲する貴族派の船の周り。 サイトの目には豆粒のようにしか見えない竜の一匹に向けて刻まれたルーンが光り輝く。 すると、原理は全く理解できないが、支配下に置き力を引き出すことまでサイトは出来るようになっていた。 だがそんなことをしても気分は晴れはしない。 正直なところ、学生のくせに戦場に手紙の回収に行けという姫もルイズも理解できなかったが… 死を前にして明るく振る舞う貴族達は、更に不可解な人々だった。 勇ましいというより、この上もなく悲しくサイトはただただ憂鬱になっていた。 時々この力をくれた枢機卿と変な牛が会談してるのとか見えるし。 同じ世界から来たはずのポルナレフ達が彼らに一定の理解を示してパーティに参加していることも、サイトの気分を落ち込ませていた。 以前から共に行動していても、サイトだけが薄皮一枚…別の空間にいるような気にさせられる。 以前から薄々そんな感じはしていた。 その理由は、彼らにも秘密があるからだと思っていた。 共に過ごす時間が増えれば自然と解消されるものだとも。 だが、それは違うのではないかと言う気がしていた。 背を向けている場所、城の中では今最後のパーティが開かれている。 城のホールに簡易の玉座が置かれ、アルビオンの王、年老いたジェームズ一世が、腰掛け、集まった貴族や臣下を目を細めて見守っていた。 明日で自分たちは滅びるというのに、随分と華やかなパーティであった。 王党派の貴族たちはまるで園遊会のように着飾り、テーブルの上にはこの日のためにとって置かれた、様々なごちそうが並んでいる。 会場に貴婦人達の歓声が飛んだ。 思わず振り向くとウェールズが現れ、若く、凛々しい王子はどこでも人気者のようだった。 彼は玉座に近づくと、父王になにか耳打ちした。 ジェームズ一世は、すっくと立ち上がろうとした。 が、かなりの年であるらしく、よろけて倒れそうになりホールのあちこちから、屈託の無い失笑が漏れる。 「陛下! お倒れになるのはまだ早いですぞ!」 「そうですとも! せめて明日までは、お立ちになってもらわねば我々が困る!」 ジェームズ一世は、そんな軽口に気分を害した風もなく、にかっと人懐こい笑みを浮かべた。 「あいやおのおのがた。座っていてちと、足が痺れただけじゃ」 ウェールズが、父王に寄り添うようにして立ち、その体を支えた。 陛下がこほんと軽く咳をするとホールの貴族、貴婦人たちが、一斉に直立する。 その様子を薄暗がりのバルコニーからサイトは困ったような顔をして見ていた。 直立する彼らの中に、サイトは貴婦人達と談笑していたらしいジョルノ達を見つけた。 「諸君。忠勇なる臣下の諸君に告げる。いよいよ明日、このニューカッスルの城に立てこもった我ら王軍に反乱軍『レコン・キスタ』の総攻撃が行われる。 この無能な王に、諸君らはよく従い、よく戦ってくれた。しかしながら、明日の戦いはこれはもう、戦いではない。おそらく一方的な虐殺となるであろう。 朕は忠勇な諸君らが、傷つき、斃れるのを見るに忍びない」 老いた王は、ごほごほと咳をすると、再び言葉を続けた。 「したがって、朕は諸君らに暇を与える。長年、よくぞこの王に付き従ってくれた。厚く礼を述べるぞ。 明日の朝、巡洋艦『イーグル』号が、女子供を乗せてここを離れる。 諸君らも、この艦に乗り、この忌まわしき大陸を離れるがよい」 しかし、誰も返事をしない。一人の貴族が、大声で王に告げた。 「陛下! 我らはただ一つの命令をお待ちしております! 『全軍前へ! 全軍前へ! 全軍前へ!』 今宵、うまい酒の所為で、いささか耳が遠くなっております! はて、それ以外の命令が、耳に届きませぬ!」 その勇ましい言菓に、集まった全員が頷く中、サイトはルイズに奇妙な安心を覚えた。 彼らの中にあって、ジョルノは無関心に、ワルドが彼らに羨望の眼差しを向ける中でルイズも悲しげな様子を見せていた。 「おやおや! 今の陛下のお言葉は、なにやら異国の呟きに聞こえたぞ?」 「耄碌するには早いですぞ! 陛下!」 老王は、目頭をぬぐい、「馬鹿者どもめ……」、と短く眩くと、杖を掲げた。 「よかろう! しからば、この王に続くがよい! さて、諸君! 今宵はよき日である! 重なりし月は、始祖からの祝福の調べである! よく、飲み、食べ、踊り、楽しもうではないか!」 そうして辺りは喧騒に包まれた。 こんな時にやってきたトリステインからの客が珍しいらしく、王党派の貴族たちが、かわるがわるルイズたちの元へとやってきた。 貴族たちは、悲嘆にくれたようなことは一切言わず、三人に明るく料理を勧め、酒を勧め、冗談を言って来ようとする。 そうした空気から逃れるように、ルイズがバルコニーへと歩いてくるのがサイトには見えた。 そして、彼らのやり取りなど全く無駄な、何の影響も及ぼされた様子のない爽やか、と言うには聊か冷淡な雰囲気を纏ったジョルノが玉座に腰を下ろしたジェームズ一世の前に向かっていった。 「ジョナサン…」 サイトはポツリと名前を呟いた。 同じ黒髪で、ファミリーレストランの名前と同じくせに、聞けば自分より年下の学生であるにも関わらず、歩いているだけの姿が何かサイトとは違う生き物であるかのようだった。 「本当は吸血鬼なんです」とか言われても、信じるだろうな。サイトは苦笑していた。 「陛下、幾つか折り入ってお願いしたいことがございます」 喧騒の始まりと共に玉座にしがみつくように腰掛けていた老王の下に来たジョルノは、そう言った。 王は弱った体を愉しげに揺らして、この会場には場違いな空気を纏った客人、ジョルノに頷きを返した。 「明日には消え去ってしまうこの老骨にお願いか…よかろう、伯爵。遠慮なく言うが良い。わしに出来ることであればなんなりと叶えようではないか」 「ありがとうございます。陛下、ウェールズ皇太子以下王党派のメイジ全員を頂きたい「ご冗談を!我らの陛下に対する忠誠心を如何にお考えか」 「我らの覚悟は、この宴を開いた時に既にお見せしたはず」 間髪入れずに宴を楽しんでいた貴族達の中から剣呑な声が放たれた。 ワイングラスを誰かが棄てたのか、ガラスが砕ける音がした。宴の空気は消えて、その場にはさながら決闘の場に変わろうとしてている。 ワルドがルイズがバルコニーから戻り口を挟もうとするのを止めている。 ジョルノを計ろうとでも言うのか、髭を剃り落とされた顎を撫でながらジッと、ジョルノへ視線を注いでいた。 「覚悟とは犠牲の心ではない。殉ずるのも真の忠誠ではない…私の下に一時的に身を「お客人、言葉は選ばれるべきですな」 そう言葉を遮った貴族の手には杖が握られていた。このパーティの為に着飾ったメイジ達の輪の中から一歩進み出て、充血した目を向けてくる。 「我らは古い貴族です。誇りの為には流血を必要とするというのが我らなのですぞ」 やれやれといいたげにジョルノはウェールズへ顔を向けた。 「ウェールズ公、あなた方が死んだ後、アルビオンがどうなるかお考えになったことは?」 既に同じ事を問いかけられ、ワルドにルイズとの婚礼を頼まれていたウェールズは冷静な態度で握っていたグラスに注がれたワインを見つめている。 「わかっているとも。その為に、私は逃げ出せないのだよ」 声には責任感で固められた強い意志があった。 その言葉に感銘を受けたのか、ウェールズを称えるような言葉が場内から聞こえた。 それに水を指す形で、口裏を合わせ図っていたようなタイミングでジョルノは冷たく言う。 「ウェールズ殿下はこう仰っていますが。あなた方の領民やご家族はどうなるでしょう?」 決して大きな声ではなかったが問うたジョルノに、会場にいた貴族達は皆眉をしかめた。 取り分け、半数以上にも登る家族を国外へ逃がした者達は苦虫を噛み潰したような顔に変わる。 「貴方方は我が領地に連日多数の亡命者が流れ込んでいるのはご承知ですか?」 見回すジョルノは答えようとする者を視線で圧して、反論がないことを見てから言う。 「勿論平民ばかりでもなければ私の領地に自らの足で来られた方ばかりでもない。先日(お名前は伏せて置きますが、)腰まで届くプラチナブロンドをした小さなお嬢様をお連れのE男爵夫人を夜盗に襲われていた所をお助けしました。 他にも目元にホクロのあるB伯爵のご令嬢、やんちゃが過ぎるお坊ちゃんに手を焼いておられる…」 肺腑を突かれたように顔を青ざめさせる貴族に、ジョルノは一度言葉を切った。 会場のあちらこちらから、動揺した様子がざわめきとなって耳に届いていた。 そのざわめきの音が小さくなるのを待って、再びジョルノは言う。 「これ以上は申しませんが、あなた方が皆戦死され彼らの身分が元、となったとしましょう。もし皇帝らがレコンキスタと交渉で話を済ませるつもりであれば、ご婦人方と言えど利用されるのは防げますまい」 「は、恥を知れ! 今そのようなことを…」 息を詰まらせたように、発せられた苦い声がジョルノの背中を叩いた。 ゆっくりと振り向く他国の、貴族の誇りを理解せぬ若造へと老いた貴族が唾を飛ばしながら叫んでいた。 「あ、あの子等は、妻は、今私が死ねば王家への忠誠ゆえに死んだ男の妻となる! だが私が生きていれば、この段になり命惜しさに王家を捨てた男の息子として恥にまみれることになるのだ!」 立て続けに叫ぶ彼らの頭を再び視線だけで打ちのめし、ジョルノは客人に脅される臣下を見つめる王と視線を交わした。 膝を突き、アルビオンの礼に乗っ取って頭を下げる。 「お願いいたします。陛下。彼らが残した者達、彼等が義務を果たすべき相手の為に彼らを私に預けていただきたい」 老いた王は瞼を閉じた。 老王へと注がれる臣下の、先ほどとは違った迷いの含まれた視線を受け、深い皺の刻まれた顔が険しさを増していた。 王はゆっくり、重々しく頷いた。 「よかろう。我が名において、責務を残す者達については貴公にお任せする。 前言を撤回することとなるが、皆もわかってくれるであろうな? これはわしの最後の命じゃ」 王は弱った体の中、爛々と厳しい光を宿らせた目で臣下を、息子までを見渡しジョルノへと視線を戻した。 「伯爵、それに辺り。彼らにはこの城に残る宝を持たせよう。して、次はなんじゃ? 貴公は幾つかともうしておったな」 「ありがとうございます。陛下。今ひとつは、内密にお尋ねしたいことがございます」 感謝を込め、深く礼をするジョルノに王は頷いた。 ウェールズのレビテーションに支えられ、王はついてくるように目配せしながら奥へと姿を消す。 王は去り際に臣下へと告げた。 「諸君! 何を呆けておるか! 今宵は真によき日である! 良く飲み、食べ、踊り、楽しもうではないか!」 ルイズに付き添いながらその様子を観察していたワルドは険しい表情で老王の消えた方へと向かうジョルノの背中を見送った。 先ほどまでの最後の晩餐を大いに楽しむ雰囲気ではない。 王命を果たす為別れることとなった者達の複雑な心情が、会場の空気を変えているのが会場の外側からは良く見えていた。 「惜しいな」とワルドは呟いた。 ワルドの呟きに、同じバルコニーの暗がりにいる誰かが、ワルドの方を向いた。 だがワルドはそれが誰か気にも留めなかった。 それどころか、先ほどまで「……早く帰りたい。トリステインに帰りたいわ。この国嫌い。イヤな人たちと、お馬鹿さんでいっぱい。 誰も彼も、自分のことしか考えてない。あの王子さまもそうよ。残される人たちのことなんて、どうでもいいんだわ」そう泣きじゃって自分の傍らにいたルイズのことさえ頭から締め出そうとしていた。 気のない言葉で慰めながら、ワルドの中にあったのはポルナレフの言葉だった。 あの伯爵は、自分がスパイだと気付いているという。 ならば何か手を打っているかもしれない。 ここは結婚し、偉大なメイジとなるであろうと彼が予感している相手を我が物とするだけにするべきか、ワルドは迷っていた。 それだけにすれば、ワルドは祖国も、王族も、婚約者や、趣味を同じくする友も裏切らずに済む… だが…ワルドは慰める間ルイズの肩に置いていた手に力を込めた。 「痛…っ、どうしたのワルド?」 「すまない。彼らを見て、同じ貴族として何か他人事とは思えないところがあってね」 ルイズが顔をしかめ、慌てて指から力を抜く。 逆の手を、きつく握り締めた。 「……ねぇワルド」 「なんだい?」 「貴方、姫様の…ううん、なんでもないわ。ごめんなさい」 「うん?」 「いいの! 馬鹿なことを聞いて、危うく貴方にがっかりされる所だったわ。本当、ポルナレフにも困ったものよね」 慌ててなんでもないと繰り返すルイズを安心させようと、穏やかな、彼女の思い出の中で美化されているであろう過去の自分と同じ笑顔をワルドは浮かべた。 照れくさそうに俯くルイズから目を放し光に包まれた会場、そして星を隠すほど眩しく輝く二つの月が浮かぶ空を見上げた。 見上げた空は、月が明るすぎるせいで真っ暗闇のようにワルドの目には映った。 心を決めなければならない。 ワルドから見れば少年と言っていい年齢のゲルマニア貴族には理解しようもないだろうが。 たとえ犠牲が大きかろうと、誇りに傷がつこうと…祖国と俺の未来は、覚悟が道を切り開く。 握り締めていた指を開き、ワルドはマントに描かれたグリフォンに触れた。 そんなワルドを見ているサイトの片目が冷たく光っていた。 レビテーションで運ばれる王の後に従い、ジョルノは会場の喧騒から遠ざかっていった。 ポルナレフやテファが入っている亀を抱えて月明かりに照らされた廊下を歩き、階段を上っていく。 気遣わしげな様子で王の後に続いていたウェールズと一瞬目があった。 パーティの前に通されたウェールズの部屋に程近い部屋の前で彼らの足は止まった。 中はウェールズの部屋ににて質素だったが、王がレビテーションを解かれ下ろされたベッドだけは精緻な金細工の施された高価な物だった。 王が寝室として使っている部屋らしい。 内密の話と言ったジョルノに配慮して、ウェールズ以外の者は足早に部屋を出て行く。 そして、最後の者が退室してから、ウェールズはサイレントの魔法を唱えた。 魔法の効果により、部屋の外から微かに聞こえていた風の音さえしなくなり…老いた王はジョルノに内密の話とやらをするようにと、目で言ってきた。 「モード大公の事件について知る限り教えていただきたい」 その目配せに頷くなり、ジョルノは何の前置きもなく尋ねた。 床に伏せった王の喉からクック、と笑い声が漏れた。 「…何かと思えば、伯爵は冗談がお好きなようじゃな。 ほれ、本当の頼みを言ってみよ。今なら我が王家に伝わる始祖の秘宝を見せてやってもよい」 そうジョルノへ返された言葉は先ほどまでのやりとりなどなかったかのように冷めていた。 幾つものクッションを背もたれにした、半分死んだような、枯れ木のような体の奥から淀んだ何かが溢れようとしているかのようだった。 始祖、虚無に関する秘宝に惹かれないわけではなかったがジョルノは首を振った。 「ある方からどうしてもと頼まれました」 「伯爵! 誰にそのようなことを言われた!それはどこの愚か者、ゴホッゴホッ…!」 二度目を口にしたジョルノを今回は怒りに震えながら、老王は怒鳴りつけ噎せ返った。 慌ててウェールズが駆け寄り、背中を摩る。 王の口内のどこか切れてしまったのか、咳をする王の口から赤いものが飛び散っていた。 「ふぅ…もうよいウェールズ。伯爵、早う答えんか!」 ジョルノが言葉を返す前に、「私です」そう亀の中からテファが顔を出した。 ぎょっと、王が痩せて窪んだ目を見開きクッションから身を乗り出す。 非難するような目で、ジョルノは言う。 「テファ、何故出てきました」 「本当なら私が聞かなきゃいけないことだから…これくらいは自分でやらせて」 そう言ってジョルノに申し訳なさそうに亀から出てくる少女を王は驚愕を持って迎えた。 出てきた亀の中から、ポルナレフの声がした。 普段の脳天気にも見える明るさはなりを潜めた、年相応の落ち着いた声だった。 「ジョルノ」名を呼ばれたジョルノは亀の甲羅に差し込まれた鍵の宝石の部分から中を覗き込む。 宝石の中に小さなポルナレフと、複雑な表情で杖を持ったままソファに座るマチルダが見える。 よく見れば、我関せずといった素っ気無いたいどで見繕いをするペットショップの姿も、部屋の端っこの方に確認できる。 ポルナレフは、何も言わずに硬い意思を感じさせる眼差しをジョルノに向けていた。 靴に化けたままのミキタカからも視線を感じたジョルノは軽く息を吐き、テファの隣にたった。 既にテファのことを認めているウェールズは気遣わしげに、王は悪夢でも見ているような目をしていた。 王が節くれだった指でテファを指した。 テファは初めて会う叔父に対する親愛の情が篭った眼差しを向け、微笑すると亀の中にいる間にマチルダに教わったアルビオンの儀礼に乗っ取ったお辞儀をする。 「貴様、その耳…まさか」 テファの耳を指す指の震えが、王の激しい感情の揺れを表すように激しさを増す。 顔を未だ伏せたまま、いつもの聞く者を穏やかな気持ちにさせる、囁くような声ではなく、緊張から響きの良い声でテファは返事を返す。 「はい、陛下。ティファニアと言います。私はモード大公と愛人だった母「杖じゃ! つ、…っごほっごほっ」 「!父上!」 「叔父様!?」 血の混じった咳をしながら、王は布団を叩いた。 簡単にへし折れそうな細く血管の浮いた指が痙攣を起こしながら布団を掴む。 「汚らわしいぞッ! 叔父などッ…う」 その言葉を最後に、王は胸を押えて布団へと倒れた。 「父上ッ父上…!」 体を支えながら、ウェールズが何度も呼びかける。 だが既に、発作を起こした一人の老人は息を引き取っていた。 テファが悲鳴を上げる…サイレントで遮断された室内に、甲高い叫びが良く響いた。 冷静にジョルノがベッドに駆け寄り、スタンドで心臓マッサージなどを試みる。 だが、その甲斐もなく王は、決戦の日を待つことなくテファの父との間にあった出来事を話すことも、再びその瞼さえ動かすことはなかった。 その死は、震える手で瞼を閉じるウェールズの判断で隠されることになり、「二人のせいではない。先の件も、変わりはしない…父の最後の命だ。命にも従う。だが…」と肩を落としたウェールズは二人に言った。 だがやり切れない顔でそう言ったウェールズがその頭で考えたのは父ではなくまだ生きているアンリエッタだったことに、ジョルノは気付きながら素知らぬ顔で礼を言った。 そして、ジョルノは王の死に責任を感じているらしいテファの元へ戻って抱き寄せる。背後で手を空ける為に上下逆に置いた亀からマチルダの声が聞こえたが聞こえないふりをした。 耳が痛くなるほど叫び、今まだ取り乱していたテファは、 「ジョ、ジョルノ。私、私大変なことしちゃった」 「落ち着いてください。テファのせいではないとウェールズ殿下も言ったでしょう?」 テファの髪を撫でながら、ジョルノは刺激しないよう優しげな声で言う。 囁かれた言葉に、狼狽えたままのテファは自分が悪いと決めて聞く耳を持っていなかった。 「嘘よ、私が、お体が悪かったのに私なんかが現れたから…」 「それは違う。ティファニア、父の死は寿命だったのだ。君が気にすることはない」 「そんなことないわッ! 叔父様は…私を憎んでらっしゃったわ…! だから、あんなお体だったのに興奮して…!」 亡くなった父の瞼を閉じ、ベッドに寝かせながら言葉をかけたウェールズに、テファは激しく首を振った。 少し眉を寄せて、ジョルノは先ほどよりも幾分強い口調で言う。 「テファ、僕が違うと言っているんです」 「ううん、私が悪いの。クリスの言うとおりなんだわ。私が、私が生ま」 呆れたジョルノは一転して、テファの頬を叩いた。 亀の中からポルナレフが手をあげたことについて激しい非難を始める。 ジョルノは無視して言う。 「何度も同じことを言わせないでください。僕が違うと言っているんです」 少し加減を間違えられてほっぺたを真っ赤にしたテファは、呆然とした様子でジョルノを見つめた。 亀の中から、喧騒が聞こえたが…亀を気にする余裕はなかった。 静かな声。だが静かに、怒っているのだと考えたテファは俯いてしまう。だがか細い小さな声で言い返しもした。 「で、でも…現に、こ、ここうなって、叔父様が」 「違う! いいか、貴方が彼らにしたことなんて何もありません」 俯いたまま目を動かし、死体をみようとするテファの顔を片手で押さえ、ジョルノは低い、厳しい声で切り捨てた。 テファは真剣な眼差しから逃れようとして下を向いた。 目から零れ落ちたものか、雫か敷かれた毛の長い絨毯に少し沈んだ靴の上に落ちて光った。 テファの頭の中には、叔父の死を引き金に母が殺されたことや、これまでのこと、父母や、イザベラに言われた言葉が繰り返されているようだった。 「でも皆、そう言うわ。出来損ないの私だもの、そうに違いないわ。私も、そう思うもの「違う」 否定的な考えに取り憑かれ口からでた言葉に、今までになく強い口調でも断言するのを聞いたテファはジョルノを見上げた。 声音がほんの少し前とは全く変わっているように感じられたからだった。それは正しく強い口調だったがジョルノは怒りなどは見せていなかった。 涼やかな、意気消沈するウェールズの目にも、このアルビオンに吹く春風のように、鬱屈した気持ちを吹き飛ばすような爽やかさが感じられた。 「そんなことを思っているのは貴方だけだ。(貴方も他の者も)僕が黙らせる」 微笑を浮かべたジョルノの声は、心地よく響いた。聞く者によっては話しかけてくる言葉に危険な甘ささえ感じられた。 が、酷く落ち込み鬱屈した気持ちを抱えようとするアルビオン王家の二人は全く気にもせず、奇妙なほど惹きつけられていた。 「いずれ、帽子も魔法も使わなくても自由にどこへでも行けるように暮らせるようにしてみせる」 驚いたようにテファがジョルノを息をするのも忘れて見つめた。 そうして一瞬、安堵したように息をつきジョルノの笑みに釣られるように、テファが薄く笑うのを見てジョルノは…少し乱暴にテファを亀に押し込んだ。 らしくないと微かに頭を振り、父の亡骸の傍らで無理をして穏やかな顔を見せるウェールズに礼を言って、部屋を後にする。 「よく言ったな、ジョルノ」 部屋を出て、扉を閉めるなりテファを押し込んだ亀からポルナレフが言葉をかけてきた。 靴に姿を変えていたミキタカも、人間の姿になって言う。 「ちょっとは見直しましたよ」 そう言って肩を叩いてミキタカは亀の中へと戻っていく。 ジョルノは眉間に眉を寄せて困ったような顔をして歩き出した。 ミキタカと交代するかのように、ペットショップが亀の中から飛び出す。 狭い階段の中を飛ぶペットショップの姿に、ジョルノは亀を持っていない方の腕を差し出した。ペットショップがそこに泊まる。 珍しく言い返してこないジョルノにポルナレフは亀から頭だけ出して、愛嬌のある笑みを浮かべた。 「照れるなよ、俺はこれに関しちゃ応援するぜ」 「ありがとうございます…」 「なんだなんだ! 歯切れが悪いな。何が気に入らないんだ?」 ため息混じりに尋ねたポルナレフにジョルノは苦笑した。 「そういうことじゃあないんですが…テファは?」 「嬉しそうにはしちゃいるが……ッ、まさか…二人っきりにして欲しいとかそういう話か!?」 何かを想像し意味ありげな笑みを浮かべて顔を寄せてくるポルナレフにジョルノは首を振った。 「いいえ。まだ用事がありますからね」 「用事…? まぁいい。それより吐けよ。何が気に入らないんだ?」 尋ねられたジョルノは、腕を組んで少し考えるような素振りを見せた。 片方違う色の目をさせてジョルノを覗き込むペットショップの羽を眺める。 「おい、黙るなよ…なんならテファなら奥の亀の中に入れておいてやるからさ。ミキタカ!、テファを奥に連れて行け」 「…」 亀の中から聞こえてくるやり取りに、歩き出しながらジョルノはため息をついた。 持ち歩いていた亀を階段に置いて、ジョルノは言う。 「この話は以前から考えていたものです。それを」 「それを?」 ポルナレフは首を傾げる。 薄暗い階段で足を止めたジョルノの苦笑はなりを潜め、険しい表情に変わっていた。 「いえ、また今度にしましょう。僕はこれからこの城を一回りしてきます。後のことはお任せしましたよ」 「はぁ?」 勝手なことを言って階段を上がっていこうとするジョルノの肩を、マジシャンズレッドを使って掴む。 肩越しに振り返ったジョルノは、普段どおりの冷静な顔をしていた。 「なんです?」 「なんで一回りする必要があるんだ?」 「もしもってこともありますからね。念の為に明日までに退路を確保しておきます」 「そ、そうか…」 返事に納得したポルナレフは肩を掴んでいた手を離させる。 ジョルノは一人壁に手を付き、薄暗い階段を一人上がっていった。 古い石段を上りながらジョルノは腕に止まったペットショップに言う。 「イザベラ、何か変わったことは? シャルロットとは予定通りうまくやっていますね?」 『使い魔は、主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ』 使い魔とメイジの繋がりを利用した感覚の共有。 イザベラの使い魔であるペットショップは、それにより現在ガリアにいるはずのイザベラを感じ取り、簡単なことであればジョルノに伝えることが出来る。 イザベラが戻ってから何度か行ってきたことだが、ペットショップはその日に限り何もしなかった。 月明かりに、ペットショップにしては珍しく、困っているようにジョルノの目には映った。 何か行動し、イザベラの言葉を伝えようとするはずのペットショップはジョルノを見ると首を横にふった。 「……何か怒らせたかな?」 怪訝そうに言うと、ジョルノはペットショップに辺りを見回ってくるように言って窓から夜空へとペットショップを放す。 夜空を悠々と飛び始めたペットショップの姿を暫し眺め、先ほどの会場で組織の人間でもある王党派の貴族から受け取った手紙を懐から取り出した。 今頃は会場で、家の為であり王の命でもあると説得し、あるいはこちらに引き込もうとしている者達は最悪生み出した亀の中にすし詰めにでもしよう。 今度こそ、城の中を一通り見て回る為に歩き出した。 To Be Continued...
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依頼を受けた翌朝、朝もやに紛れてジョルノ達は出立の準備をしていた。 アンリエッタ王女から授かったのは極秘任務。それも国家の命運を左右する可能性がある重大なもの。 誰にも言えない。聞かれてしまえば、口封じの為に殺人を行う事も許可されている。 それに加えてアルビオンの王党派の命脈は風の便りによれば最早尽きようとしているから、という建前でいそいそと準備を進めていた。 それはプッチ枢機卿から借り受けた風竜アズーロの横でそわそわしているルイズの主導によるものだ。 どうやらルイズは、母親のヴァリエール公爵夫人への説明に失敗したらしい。 予想はついたが、ジョルノ達はそれについてはあえて聞かずに準備を進めていく。 元々あのルールを重んじるヴァリエール公爵夫人に嘘をついて学生の本分を疎かにする許可を得るなど無茶な話だと、共にアルビオンに向かう人員の何名かは理解していたからだ。 予定としてはサイトが竜を扱えると言うので、ジョルノ達は重量軽減の為亀の中に入り総重量を軽くしてアルビオンへと向かう算段だった。 サイトがこの件を枢機卿から聞いたということについては、これも誰も突っ込まない。 『敬虔な信徒が懺悔したいと言うんだからね。私が断る理由はなかったよ』とはその枢機卿がベッドの上でジョルノに言った言葉だったが。 「風のルビーをゲットできたようですね」 「…ええ。姫様が任務を引き受けた私に授けてくださったわ。これと始祖の祈祷書があれば私は魔法を覚えられるのね?」 「可能性は高いでしょう」 ルイズは、魔法でぴったりのサイズとなり細い指に通され存在を主張する『風のルビー』を掲げる。 光を受けて輝くルビーを見つめる眼差しには飢えと、期待と不安に満ちていた。 風のルビーはルイズの希望となったのかもしれない…ジョルノはルイズを横目に、まだ亀の中には入らずにココ=ジャンボを金属で補強された皮のベルトで括り腰につけていた。 ココ=ジャンボの能力についてもルイズに口止めをしており、アンリエッタがジョルノ達以外の誰にも打ち明けないことを全く期待していないということだった。 それについて、ルイズは2、3文句を言ったが、さっさと出発したいらしく今は黙っている。 これもまたプッチ枢機卿から譲り受けたAK小銃の具合を確かめていたジョルノは顔を上げ、視界を曇らせる朝もやの一点を見つめた。 「ジョナサン、どうかしたの? もしかして…」 ジョルノの行動から、母がやってきたことを考えてしまいルイズが青ざめる。 だがルイズの予感は外れた。朝もやを抜けて現れたのは、ジョルノ達の居場所を何らかの、恐らくは風のメイジらしく空気の動きなどで見つけた衛士服に身を包んだ男だった。 深く被っていた羽付き帽子を男が取ると、ジョルノの腰につけられていた亀が安堵して息をついた。 「アンタ、随分若返ったな」 「…あ、ありのまま起った事を話す」 ココ=ジャンボ…の中にいるポルナレフは男の一点を見つめて言うと、脂汗を滲ませて男は言った。 「私はジャンニーサンと熱く紳士的な暮らしについて議論を行っていた。 すると何かが僕に直撃して意識を取り戻した時には髪の毛も髭も残念なことになった…な、何を言っているかわからないと思うが、私にも何が起ったのかわからなかった。 ゲルマニアの軍隊とかトリスティンの衛士隊だとかそんなちゃちなもんじゃない。恐ろしいまでの怒りを味わったよ」 その場にいる皆に少し芝居がかった身振りを交えて言うジャン・ジャック…魔法衛士隊の隊長らしい男は先日会った時は長髪、そして豊かな髭を蓄えた男だった。 だが被っていた帽子を取り、今真剣な表情で亀に説明をする男の髪はとても短い。 ある程度切りそろえ無造作にセットされてはいたが、いい腕の職人など用意する時間はなかったのか髪の長さも多少ばらつきがある。 そして髭は完全に剃られ、剃り残しなど見つからなかった。 「…ちなみにちょっとした好奇心で聞くんだが、紳士的な暮らしってなんだ?」 「良く聞いてくれたね。それはつまり紳士的である為には。特に我々のような青年から壮年へと差し掛かった紳士には家庭が必要になってくるという話さ」 あくまでも真剣に亀に向かって語る衛士の姿は滑稽だったが、それに気付いた様子もなくポルナレフはジャン…ワルドに返事を返す。 「…ふむ。それは一理あるかもしれないな」 「だろう? それはつまり納得できる仕事を終えて帰ると出迎えてくれる可愛い奥さん」 と言ってワルドは少し離れた場所に立つルイズに視線を一瞬送り、 「時々ある種の趣を感じてしまうようなけしからんメイドを数人とこの際執事も妙齢の女性、一言で言うと掌に少し納まらないような感じ?を採用してはどうかなと」 まだ出だしだというのにポルナレフの亀は首を横に振った。 周りの空気を読んだわけじゃあない。 現在亀の中にいるのはポルナレフだけではないからだ。 亀の中で、杖を向けようとするマチルダをテファが必死になって止めてくれているのに気付いたからだ。 「そ、それくらいにしておこうぜ」 「そうだな。申し遅れたが姫殿下より、君達に同行することを命じられてね。君達だけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたってワケだ」 ワルドはそう言って皆に、ルイズに一礼した。 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」 「フーン」 トリスティン貴族達の憧れ…魔法衛士隊の隊長ともなれば実力も確かなのだろうが、先日食堂でのワルドを見ていたジョルノとサイトの反応は気の無いものだった。 一応、トリスティン王宮で流行の礼などして見せてはいるが、ジョルノの中でワルドを指名したアンリエッタ株がストップ安を記録するのも詮無いことだった。 ルイズとは既に再会を果たしていたらしく「おはようルイズ、昨日はみっともない所を見られてしまったね」 そう言ってワルドはルイズを軽々と抱き上げる。 「相変わらず軽いな君は! まるで羽のようだね!」 「……お恥ずかしいですわ」 ワルドはルイズを地面に下ろすと、再び帽子を目深に被る。 「さて彼らを、紹介してくれたまえ」 「あ、あの……、ゲルマニアのネアポリス伯爵と、伯爵の亀のポルナレフ。同級生のマリコルヌの使い魔サイトです」 「君は使い魔だったのかい? 学院の給仕かと思っていたんだが」 驚きはしたものの、ワルドは気さくな感じでサイトに近寄った。 サイトは馴れ馴れしくされるのが嫌なのか「よく言われます」と微妙な表情で返す。 それを察したのか、ワルドはサイトから離れ準備を続けるジョルノへと近寄っていく。 「ネアポリス伯爵。よろしく頼みます」 「こちらこそ」 「極秘とはいえ、遠からず同盟を結ぶ祖国の為なんとしても任務達成を目指しましょう!」 友好的な態度を見せるワルドとジョルノはにこやかに挨拶を、それこそ肩を叩き合ったりなどもしてから、ジョルノは目を反らした。 その先にはルイズがいる。 「ルイズ、先に子爵と共にアルビオンへ向かってください。港町ラ・ロシェールで落ち合いましょう」 「な、何突然言ってるのよ!?」 「一番上等な『女神の杵』亭を借りておく手配をしておきましたから、そこで待っていてください」 「だから…! どうして、一緒に行かないのよ!?」 突拍子も無い指示に説明を求めるルイズにジョルノはむしろ不思議そうに言う。 「ルイズ。母君の説得、失敗しましたよね?」 「…そ、そんなことはないわ! ちゃんと数日授業をお休みする許可を頂いて」 港町ラ・ロシェールは人工三百程度の小さい街だが、アルビオンの玄関口として常にその10倍以上の人間が街を闊歩している。 そんな街の一番上等な、貴族の客しか相手にしない『女神の杵』亭を宿ごと借りたというジョルノの言葉に驚いていたワルドは苦笑する。 あからさまにどもってしまったルイズの態度からそれはない、とわかってしまったのだ。 「公爵夫人を足止めする為に芝居の一つも打っておかないといけませんからね」 「何かて、手があるの?」 「カトレアに頼んで体調が思わしくない振りをしてもらうことになっています。少し薬も服用して、ちょっとだけ大げさに(勿論実際に病気が再発したりしたわけじゃあありませんよ?)。 それから以前治療した私が適当なことを言って、公爵夫人は看病をお願いするカトレアに暫くの間は付いていることになるというわけです」 普段と変わらぬ、爽やかな笑顔がどす黒く見えたのはサイトの気のせいだろうか。 ともかく、ルイズはその案に素直に賛同する事はできなかった…が、そうでもしないと母に捕まらずにアルビオンに向かうなど到底不可能なようにも思えた。 亀の中で誰かが騒いでいるらしく、ジョルノの腰で亀が揺れる。 ルイズは、複雑な顔をしたが苦い顔をしてジョルノに言う。 「わ、わかったわ。でも、あんまり遅いと置いていくわよ!?」 「ええ、勿論です。サイト。子爵のグリフォンがありますし、そういうわけですから君も残ってくださいね」 「ん? ああ、俺は別に構わないぜ」 そういうことになり、グリフォンに乗り先行するルイズを見送ってから、一旦ジョルノは学院の中へと戻っていく。 ルイズには簡単なように言ったが、その公爵夫人に「カトレアのことをお願いします」とか言われて旅立たれてしまっては元も子もない。 自室に戻ったジョルノは、AK小銃を亀の中に仕舞い、着替えなども仕舞ってからソファに腰掛ける。 ある意味裏切り者の疑惑があるワルドに対するよりも警戒しながら、ジョルノは公爵夫人がカトレアの様子がおかしいと尋ねてくるのを待った。 空いた時間を利用して、今朝届いたばかりの手紙を手に取ると、バーガンディ公爵家の紋章で封じられている。恐らくまたバーガンディ公爵から泣き言が書かれた手紙だろう。 読むかとうか迷っていると、呼び捨てなんて随分親しげじゃないか?と亀の中から呪詛のような声が聞こえてくるのを華麗にスルーして待つこと数分。 そうして、暫くして部屋の扉がノックされる。落ち着きの無い強い叩き方だった。 「ネアポリス伯ッ、ジョナサン…! 扉をあけて頂戴!」 「はい。今開きますのでお待ちを」 手紙を読むのはやっぱり止めて、ナイフを持って借りたガンダールヴの性能を確かめていたジョルノは返事をして扉を開けに行く。 そして慌てている公爵夫人の依頼を受け、ラルカスにも連絡してからカトレアの所へ向かう…そこまでは予定通りだったのだが、カトレアの部屋を訪れたジョルノはすぐに表情を変えた。 いつの間にか可愛らしい物や動物で溢れかえっている部屋にちょっぴり辟易したとかそんなことじゃあなく、ベッドで臥せっているカトレアの様子が予定とは違ったのだ。 ジョルノは脈を取りながら公爵夫人にカトレアの症状を尋ね、歎息した。 どうもジョルノがそれっぽい症状を引き起こす為に用意した薬を指定した量より一滴多く服用してしまったらしい。 「ジョナサン、カトレアさんが大変だと聞いてきたんだが」 「ラルカス、いい所に来ました。すぐに水魔法を。それと公爵夫人、申し訳ありませんが席を外してください」 心配だろうに何も言わず指示に従う公爵夫人を見送ったジョルノは、用意しておいた処方箋とラルカスの魔法でカトレアの治療にかかった。 ………薬を飲ませ、ラルカスの卓越した水魔法でどうにか治療を施されたカトレアは、ベッドの周りにいるジョルノとラルカスを申し訳なさそうに見上げた。 自分の額の汗を拭くジョルノと、寝乱れた美女もいいとちょっぴりわくわくしているラルカスにカトレアは礼をいう。 「ジョナサンごめんなさい」 「構いません。きっちりその分だけ渡せばよかったですね」 薬を片付けながら返事を返すジョルノを少し眺めて、カトレアは言う。 「少し焦った?」 「いいえ」 「あらやだ。嫌われちゃった」 もう少し量を間違えると危険な薬だったと言うのにカトレアは楽しそうに笑った。 ジョルノはそれには何も言わずにベッドから離れ、ラルカスの背に隠れて汗をかいたシャツを脱ぎ、亀の中から向こうの世界で作った少々オリジナリティに溢れすぎる制服のジャケットを取り出す。 そんな素っ気無い態度を見て、ぺろっと舌を出していたカトレアは含み笑いをした。 「でもこうでもしないとジョナサンって放って置いても平気って思うんじゃないかしら」 「貴方はそれでも問題ない方だと思いますが」 「あらあら、そんなことばかり言って……次は浮気しようかしら」とカトレアは寝台に横たわったまま、改めて旅支度として久しぶりに向こうの服に袖を通すジョルノを上目に見つめた。 鏡の前で腰でじたばたと足を動かすココ=ジャンボの位置を直し、テントウムシのブローチの位置を確認していたジョルノは納得が行ったらしくカトレアには返事をせずラルカスへと目を向ける。 「ラルカス。そろそろ期限ですが、ペニシリンは完成しましたか?」 「ん? ああ、先日第一号が完成した。ボスが戻るまでにはある程度数を用意できるぜ」 「ベネ。アンタのお陰で工程が繰り上がって来たな」 嫁どころか小動物を召喚して落胆していたとは思えない、自慢げなラルカスの胸を軽く小突いてジョルノはカトレアのベッドの方へと戻ってくる。 ラルカスはそのまま、カトレアのベッドの先にある窓の外で待つサイトの元へと行くジョルノの背中を眺める。 牛の顔に、何時になく真摯な眼差しを作りラルカスは言う。 「ボス。何かあったら使い魔で連絡をくれ。あんたの命令なら、アンリエッタの暗」 「そこまでだラルカス。留守を頼む」 頷くラルカス。 肩越しに振り向いていたジョルノは、思い出したように無視された上に不穏当な会話まで聞かされ、息を呑むカトレアの手を取って口付けた。 「するな」 「え? ……あら…うふふ。わかったわ」 「……あの、ボス? そろそろ行ってやらないとサイトが泣くと思うんだが」 乱暴な言い方だったが、口元に緩く孤を描くカトレアを見て、なんとなく切ない気持になったラルカスは口を挟む。 寝ていたところを治療の為に起こされたラルカスは、それでも直立不動でジョルノに申し訳なさそうな声だった。 ジョルノは息をつき、 「そうですね。ああラルカス、シャルロットの所に手紙は届けましたね?」 「ああ。母君を治療する準備が整ったことをイザベラ様から伝えられているはずだ。これでアルビオンには向かえま…」 窓の外に何かを見たらしく、動きを止めてしまったラルカスを見てなんとなく察しがついたジョルノはやれやれと歎息し窓へと目をやった。 ベッドに臥せっていたはずのカトレアが、窓の外に現れた風竜の頭を撫でていた。 その首根っこに当のタバサが跨っている。 まだオフレコだが、ああなってしまったジョゼフ王が、オルレアン家も赦免すると言う話をイザベラから聞いたので治療を引き伸ばす必要もなくなった。 そう判断したので、わざわざイザベラ経由で手紙を送ったのだがタバサにはばれていたらしい。 だがジョルノはそわそわしているタバサにとぼけた態度で言う。 「こんな早くに何か?」 「…この借りは、いつか必ず返す」 タバサがそう言うと、風竜は巨体を翻し風を巻き起こしながらガリアの方角へと飛んでいく。 最初から全速力で飛んでいるらしく、あっという間にその姿が小さくなっていく。 風に飛ばされたカトレアを抱きとめて、風が収まるのを待ってからジョルノも窓から出て行く。 窓の外で竜に跨り、早く飛ばしたいなぁとぼやいていたサイトの後ろにジョルノは下りた。 「お、驚かすなよ!?」 「すいません。行きましょうか」 「ああ!しっかり捕まっててくれよな!」 得意げにサイトが笑い、アズーロが飛び立つ。 そして次の瞬間には「ちょっとこっちに来な」とジョルノはマチルダに耳を引っ張られ、亀の中へと引きずり込まれる。 中から女性の怒鳴り声とそれを止めるポルナレフの声が聞こえてきたが、サイトは聞こえないふりをして初めて竜の背に乗って飛ぶ空を満喫することにした。 だって怖いし。 To Be Continued...